隣の小学校の先生が殺された。
容疑者のひとりが担任の美旗先生と知った俺、桑町淳は、クラスメイトの鈴木太郎に真犯人は誰かと尋ねてみた。
殺人犯の名前を小学生に聞くなんてと思うかもしれないが、鈴木の情報は絶対に正しい。
鈴木は神様なのだから―(「少年探偵団と神様」)。
衝撃的な展開と後味の悪さでミステリ界を震撼させた神様探偵が帰ってきた。
他の追随を許さぬ超絶推理の頂点がここに。
ミステリの連作短編集。
第一話の犯人は、「上林護」である。
ミステリの感想文で犯人の名前をいきなり明かすとは何事だとお怒りの方がいるなら、
それは誤解だ。
なぜなら、本作はすべて冒頭の一行目で真犯人の名前が明かされているからだ。
自称「神様」の鈴木が、いきなり犯人の名前を告げてしまう。
なにしろ「神様」だから間違えることはありえない。
そこで明かされた名前は間違いなく、真犯人の名前なのだ。
それだけで十分異色のミステリなのだが、
だからと言って、本作は決してイロモノではない。
まごうかたなき、本格ミステリである。
第一話「少年探偵団と神様」、第二話「アリバイくずし」あたりでは、あ
ただ単に冒頭で犯人の名前が明かされるという一点だけが異色なだけで、
内容は、ごくごくフツーの短編ミステリでしかない。
犯人が最初からわかっていて、その前提に基づいて、
「ではどうやったら犯行が可能だったのか」と考えていくロジックの組み立て方は面白いけれど、
犯人が最初からわかっていることで、犯人当ての要素がゼロになってしまっている分をカバーできるほどの魅力はないなと感じた。
これは、企画倒れかな。ハズレかも。
そんな風に思いながら読み進めた。
ところが、第三話「ダムからの遠い道」くらいから、ちょっと様子が変わってくる。
いわゆる、今流行りのイヤミス。
信頼していた人物が神様に真犯人だと告げられ、
主人公の淳もショックを受けただろうけれど、読者としてもこの後味の悪さはつらい。
第四話「バレンタイン昔語り」はちょっとした叙述トリック的要素をエッセンスにしつつ、
真犯人の名前が最初から明かされているという事実を逆手にとって読者をミスリードする。
このあたりはとても巧いと思った。
第五話「比土との対決」、最終話「さよなら、神様」と続いて、
段々、最初に明かされる真犯人の名前をドキドキしながら見るようになった。
最初の「上林護」あたりは、当然ながら誰だよそれと思ったが、
被害者も犯人も淳の親しい人物の名前が挙げられるようになり、
読み手ももう勘弁してくれという気分になる。
このミステリが連作短編集であることの意味が終盤にきて活きてくるのだ。
第一話から最終話に向けて、ミステリとしての濃度が上がっていき、
後味の悪さも加速度的に増していき、
後戻りできないほどに物語に引き込まれていく。
ラストの❤には脱力させられるとともに、何ともいえない不気味さがある。
(はたしてハッピーエンドなのか???)
これはすごい。
正直、小学生たちがあまりにも大人びていて、
これ設定は高校生くらいにしたほうがよかったんじゃないの?と思わなくもないが、
そういうこともすべて忘れてしまえるほどの破壊力がある。