「行きずりの街」 志水辰夫 新潮社 ★★☆ | 水底の本棚

水底の本棚

しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

女生徒との恋愛がスキャンダルとなり、都内の名門校を追放された元教師。

退職後、郷里で塾講師をしていた彼は、失踪した教え子を捜しに、再び東京へ足を踏み入れた。

そこで彼は失踪に自分を追放した学園が関係しているという、意外な事実を知った。

十数年前の悪夢が蘇る。

過去を清算すべき時が来たことを悟った男は、孤独な闘いに挑んでいった。

日本冒険小説協会大賞受賞作。


行きずりの街 (新潮文庫)



この作品は91年の日本ミステリー・ベスト1に輝いた作品だそうです。


「このミス」が指す「ミステリー」というのは僕が思うミステリとは違い、


本当に広義の意味での「ミステリー」なんだなあとつくづく思います。


僕の狭義のミステリ定義ではこれは「ミステリ小説」ではなく「サスペンス小説」なんだがなあ。



女生徒ととの恋愛がスキャンダルとなり都内の名門高校を追放された元教師が、


失踪した塾の教え子を探しに再び東京に足を踏み入れた。


そして彼女の失踪にはかつて彼が在籍した学園が関与しているという意外な事実を知る。



正直、途中から女生徒を探すとか何とかいうことは段々どうでもよくなってきて(主人公も僕も)、


彼自身の過去の清算と学園の悪事を暴くことが目的のようになっていく。


事実、その女生徒は捜索活動とは無関係にほとんど偶然で発見される。


昔の同僚に愛の告白をされてみたり、


かつて恋に落ちそして未練たらたらで別れた妻と再びやり直すことが出来そうでウキウキするあたりは


ほとんどラブストーリーの様相を呈しており、


ミステリなんだかサスペンスなんだかもうよくわからない。

(このあたりが一番面白かったのは事実だけど)


最後は結局僕の嫌いなアクションの連続みたいになってすっかり流し読みになってしまい、


やり直そうとする妻とまたこじれてみたり、


かと思ったらやっぱりくっついてみたりなんかがあるんだけど


その辺も心情が理解できなくってもう別にどっちでもいいやというような気分で読み終えてしまった。



話の構成なんかは上手いと思うんだけど、あまり僕の好みではなかった。




「男のそういう気持ちもうすこし上手に逆用してくれないかな。男は自分のことは棚に上げて、好きになった女性にはこうあってもらいたいと願わずにはいられないんだよ。それを過大な要求というふうに受け取られたんじゃ身もふたもないだろう。演技してくれたらいいんだ。お姫さまのふりをしてくれたら」


このあたりの二人の会話はとても興味深い。


庇護欲をそそるような女の子を好きになったことがあるなら彼の言っていることは理解できるだろう。


僕は理解できる。


ただしその場合、女性が本当に庇護されることを望んでいるとは限らない。


男の想像の範疇から簡単に飛び出していくし、


そのとき男が「話が違う」というようなことを言えば女性はそんな男はあっさり見限って去っていくだろう。


多くの男はそういうことがわからないのだ。


もちろん女性の中には守られることを快感に思い男性の望むようなお姫さまであり続けてくれる人だっている。


ただし不思議なことにそういう女性だと男はちょっと物足りなく感じたりもするのだ。


女性から言わせればどれだけ無邪気で自分勝手なんだよ、という話だろうけれども。