大手百貨店に勤める西川英雄は、四十歳をすぎて手に入れた郊外の一軒家で家族三人暮らし。
裕福ではないが、大きな不満もない。
しかし、そんなありふれた日常に生じた一点の染みが、突如、絶望の底なし沼となって男を呑み込んでいく。
「やばいとこ住んでるね。“イミチ”って、聞いたことある?」。
精神の迷路に踏みこむ、狂気のサイコホラー。
主人公が転落していくさまは、妙なリアリティがあって、怖い。
会社で転げ落ちていくって、こういう感じかもなーとか、
再就職ってそう簡単にはうまくいかないよなーとか、
せっかく、再就職できてもブラック企業だとなかなか続かないよなーとか。
いろいろ思うことがあって、
正直、サラリーマンにとってはこっちのほうがよっぽどホラーだ。
※ここからねたばらし。未読の方はご注意を。
ただ、興味深く読めるのは、この部分だけ。
リストラされた親父に、浮気をする妻、男遊びに精を出す娘……とか、
いくらなんでもステロタイプ過ぎて、読んでいるこっちが気恥ずかしくなるくらいだ。
ベタにもほどがある。
それと、本質的にはホラー小説のはずなのだが、
ホラー部分がまったくもって怖くない。
自分の家がホラーハウスになってしまう幻想的なループは面白いのだけれど、
夢オチのようなラストはまったくもっていただけない。
「イミチ」=「忌み地」というキーワードがびっくりするくらいに、活きていない。
なくてもよかっただろ、これ。
っていうくらい。
平凡なサラリーマンが、ささいなことをきっかけに「壊れていく」様子はよく描けているのだから、
むしろそういうサスペンスでよかったのでは?
ホラーとしては読むべきところがまったくない作品だった。