「壊れるもの」 福澤徹三 幻冬舎 ★★☆ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

大手百貨店に勤める西川英雄は、四十歳をすぎて手に入れた郊外の一軒家で家族三人暮らし。

裕福ではないが、大きな不満もない。

しかし、そんなありふれた日常に生じた一点の染みが、突如、絶望の底なし沼となって男を呑み込んでいく。

「やばいとこ住んでるね。“イミチ”って、聞いたことある?」。

精神の迷路に踏みこむ、狂気のサイコホラー。


壊れるもの (幻冬舎文庫)




主人公が転落していくさまは、妙なリアリティがあって、怖い。



会社で転げ落ちていくって、こういう感じかもなーとか、


再就職ってそう簡単にはうまくいかないよなーとか、


せっかく、再就職できてもブラック企業だとなかなか続かないよなーとか。



いろいろ思うことがあって、


正直、サラリーマンにとってはこっちのほうがよっぽどホラーだ。



※ここからねたばらし。未読の方はご注意を。





ただ、興味深く読めるのは、この部分だけ。


リストラされた親父に、浮気をする妻、男遊びに精を出す娘……とか、


いくらなんでもステロタイプ過ぎて、読んでいるこっちが気恥ずかしくなるくらいだ。


ベタにもほどがある。



それと、本質的にはホラー小説のはずなのだが、


ホラー部分がまったくもって怖くない



自分の家がホラーハウスになってしまう幻想的なループは面白いのだけれど、


夢オチのようなラストはまったくもっていただけない。



「イミチ」=「忌み地」というキーワードがびっくりするくらいに、活きていない。


なくてもよかっただろ、これ。


っていうくらい。



平凡なサラリーマンが、ささいなことをきっかけに「壊れていく」様子はよく描けているのだから、


むしろそういうサスペンスでよかったのでは?


ホラーとしては読むべきところがまったくない作品だった。