金雀枝荘の花が満開に咲くころ、一年に一度、かれらがこの館を訪ねる、またあの季節が巡ってきた…。完璧に封印された館で発見された不条理極まる六人の死。過去にも多くの命を奪った「呪われた館」で繰り広げられる新たなる惨劇、そして戦慄の真相とは。
古い洋館。
連続殺人。
密室。
見立て。
本格ミステリの見本市のような趣向です。
これ以上ないほど豪華な道具立てで、
それを聞いただけでミステリファンならば身震いしてしまうでしょう。
ただ、逆に言えば、これはいかにも古臭い。
ミステリファンなら身震いよりも先に、食傷気味だと感じてしまうかもしれませんね。
本格ミステリに憧れているだけの下手な書き手が、
これでもかとばかりに思いつくアイテムを全部ぶち込んで、
破綻しまくった物語を書く……なんていうのには僕も、過去、いくつも遭遇しています。
(しかもたいていそういう作品のタイトルは「○○館の殺人」とか「○○荘殺人事件」とか、そんな感じ)
しかし、この作品に関して言えばその心配は無用。
無駄に派手にしているだけではなく、
グリム童話「七匹のこやぎ」の見立てもきっちり合理的な理由があります。
密室のトリックはやや地味かな。
でも奇抜なだけの仕掛けよりも納得できていいと思います。
やたらめったら驚かそうとするだけがミステリの魅力ではないですよね。
なるほど、と思わせてくれる説得力が大事だと思います。
趣向は派手。
でも全体的には浮ついておらず、しっかりと地に足が着いたミステリという感じがします。
途中から「どう考えてもこいつは怪しい」という人物が登場し、
主人公も読者もその人物に注目せざるを得ません。
しかもソイツがまた妙に怪しげな行動を取ったりして。
主人公たち危機一髪といったところで、見事などんでん返しがあります。
今邑作品の「そして誰もいなくなる」や「七人の中にいる」にも共通した雰囲気のどんでん返しですね。
序章に登場する親子は「登場人物一覧」にも載っていません。
(両親のほうは名前も出てこないし)
彼らはいったい何者?と思いながら読み進めると、
「序章という名の終章」と名付けられたエピローグの意味がわかり、彼らが誰なのかもわかります。
こういうちょっとした趣向も楽しいと思います。