本格ミステリ作家クラブが選んだ2013年のベスト本格ミステリ短編&評論のすべて!
「水底の鬼」 岩下悠子
「ボールが転がる夏」 山田彩人
「狼少女の帰還」 相沢沙呼
「フラッシュモブ」 遠藤武文
「あれは子どものための歌」 明神しじま
「ディテクティブ・ゼミナール 第三問 ウェアダニット・マリオネット」 円居挽
「黄泉路より」 歌野晶午
「紙一重」 深山亮
「犯人は私だ!」 深木章子
評論「本邦ミステリドラマ界の紳士淑女録」 千街晶之
最初の一篇「水底の鬼」は伝承ミステリ。
「つけると本物の鬼になってしまう」という言い伝えを持つ鬼面から多種多様な解釈が生み出されます。
丁寧につくられた秀作で、こういう知をたたかわせるゲームはけっこう好きです。
どの説が正解かは読者にゆだねられているのかな。
アンソロジーは最初の一篇がかなり重要で、
ここで詰まらないと感じてしまうとなかなかその後、ページをめくる手が鈍るのですが、
今回はまあまあかな。
他のお気に入りは、
初読の作家、明神しじまさん。「あれは子どものための歌」 。
魔法が存在する中世風異世界を舞台にしたミステリ。
美しい声とひきかえに、賭け事に100%勝てる能力を手に入れた少女。
彼女が声を取り戻すためのパラドックスを利用したロジックはありきたりだけれど、
ストーリーの裏に隠されたいくつもの謎が興味深く、
まったく最後まで厭きさせることなく読ませる腕はなかなかのものですね。
円居挽さんの「ディテクティブ・ゼミナール 第三問 ウェアダニット・マリオネット」 も良かったです。
これはあきらかに連作短編の一部ですね。
ウェアダニット(どこで殺されたか)という、本格ミステリではあまりお目にかかれないタイプの作品。
純粋な意味でのウェアダニットと言えば、本当に希少種ですよ。
いわゆるデスゲーム形式の物語に本格ミステリの意匠をうまく取り込んでいます。
ぜひ、早く単行本にしてほしいなあ。
歌野晶午さんの「黄泉路より」 はまあまあ。
まあまあ…って言うか、けっこう面白かったのですけれど、
基本的に歌野晶午さんならこのくらいのレベルの作品は書いて当たり前だと思いますので。
深山亮さん「紙一重」は、過疎の村で司法書士事務所を営む主人公のお話。
巧妙とは言い難いけれど、フェアで的確に張られた伏線と、
人情味溢れるオチはなかなかの出来だと思います。