「てのひらのメモ」 夏樹静子 文藝春秋 ★★★ | 水底の本棚

水底の本棚

しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

広告代理店で働くシングルマザーの千晶は、会議出席のため、喘息の発作が起きた子供を家に残して出社、死なせてしまう。

検察は千晶を起訴。

市民から選ばれた裁判員は彼女をどう裁くのか?

法曹関係者を徹底取材して裁判員制度をリアルに描いたリーガルサスペンス。

NHKドラマ化でも評判となった話題作。


てのひらのメモ (文春文庫)



ミステリだと思って読んでしまったので、


ちょっと拍子抜けしてしまいました。



要するに、どんでん返しがあると思っていたんですね。


意外な真実が明らかになって、圧倒的な有罪(または無罪)が最後でひっくり返るという。


そんなミステリを期待していましたが……。




なのに、そういうことは特になく、


与えられた材料だけで、裁判員たちが判断する、非常にシンプルなリーガルサスペンス。


まるでノンフィクションのようでした。



まあ、そういう前提で読めば、これは非常に良くできたストーリーだと思います。


裁判の様子も裁判員たちの評議もとてもリアルだし、

(いや、実際を知っているわけじゃないのでリアルなんだろうなあと思っているだけですが)


事件の描写も本当にあったかのような繊細さ。



さて、その評議の結果はどうかというところですが……、


僕の判決は「有罪」。


彼女は常に息子を死なせるかもしれないというリスクを意識しながら仕事をしていたのですよね。


小児喘息というる病気を持った子供を独りにするということは、そういうことです。


それでも彼女は生活を成り立たせるためにはそうせざるを得なかった。


リスクの大小でその日、仕事に行くかどうかを決めていたはず。


そしてその日は、リスクが小さいと判断して仕事に行った。


でもゼロリスクでないことは彼女は間違いなく自覚していたはずだと思うのです。


そういう意味において、彼女は「有罪」であると僕は判断します。


ただし、彼女にとっても仕事に戻ることは「やむを得ないこと」だったのですし、


意図的に息子を放置して死なせたわけではないのですから、「執行猶予」はついてよいと思うのです。



ですから、僕の判決は「実刑+執行猶予」です。



さて、物語の中ではどんな判決が下されたでしょうか。


皆さんも自分が裁判員になったつもりで読んでみると面白いかもしれません。