「ワールドカップの世紀」 後藤健生 文藝春秋 ★★★ | 水底の本棚

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日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

ワールドカップは、単にテクニックを競うサーカスでも、体力を試す競技会でも、駆け引きだけで勝てる勝負事でもない。

様々な運、不運が織りなす濃厚な人間ドラマをも楽しんでこそ、本当の面白さがわかるのだ。
ワールドカップを彩った数々の名ドラマを振り返ってみよう。


ワールドカップの世紀 (文春文庫)


ワールドカップというのはどうしてこうも人を熱狂させるのだろう。



試合自体のレベルが高いとは言い難い。


欧州チャンピオンズリーグ決勝と、ワールドカップ決勝の内容を比べれば、誰もが前者を上と見るだろう。



チーム自体もイタリア代表やイングランド代表、スペイン代表よりも、


インテルやACミラン、マンチェスターユナイテッドやチェルシー、リアルマドリーやバルセロナの方が間違いなく強大な戦力を保持し、洗練されたサッカーをしていると言える。



にもかかわらず人々はワールドカップに熱狂する。

それはやはりワールドカップが誇りを賭けた戦いであり、


それぞれの国の特色を顕わにし、その国のサッカーの歴史を作っていく戦いだからだろう。



ワールドカップの歴史は二十世紀の世界史と多くの部分でリンクする。


もちろん、サッカーはサッカーで、それ以上でもそれ以下でもない。


だが、政治、経済、国際情勢…そういった要素がワールドカップに少なからず影響を与えているのも事実である。


その影響の中で選手たちは翻弄され、惑わされ、それでも尚、人々の記憶に鮮烈に焼きつくようなプレイを披露する。



その姿に誰もが心を奪われるのだ。



日本人の多くは、94年アメリカW杯以降のワールドカップしか知らない。



フライングダッチマンと呼ばれたヨハン・クライフのボレーシュートも、


90年のロベルト・バッジョのドリブルシュートも、


ローター・マテウスが決めたミドルシュートも、


もしかしたら、ディエゴ・マラドーナの5人抜きや神の手ゴールも知らないかもしれない。



本書にはワールドカップの魅力が全部詰まっている。



世界最大の祭の開幕はすぐそこに迫っている。


さあ、本書でワールドカップの歴史を読み込んでおこう。


きっとそのほうがよりワールドカップを楽しむことができるに違いない。