古城を思わせる異形の建物「水車館」の主人は、過去の事故で顔面を傷つけ、常に仮面をかぶっている。
そして妻は幽閉同然の美少女。
ここにうさんくさい客たちが集まった時から惨劇の幕が開く。
密室から男が消失したことと、一年前の奇怪な殺人とは、どう関連するか?
驚異の仕掛けをひそませた野心作。
※ものっそいねたばらしです。未読の方はご注意を。
綾辻行人さんは「本格=雰囲気」論を唱えている。
そういう意味ではこの本作は「館シリーズ」の中で最も本格推理としての色濃い作品であると言えよう。
古城を思わせる異形の建物「水車館」。
仮面を被った車椅子の主人。
妻は幽閉同然の扱いを受ける美少女。
道具立ては、古き良き時代の推理小説の雰囲気を十分醸し出している。
まるで江戸川乱歩の世界である。
この水車館がメイントリックやストーリーにあまり絡んでこないのが残念だが、
雰囲気を出すための小道具としては効果的だと思う。
過去の事件と現在が交互に語られ、両者の謎が一度に解き明かされる解決編は見事。
伏線も十分フェアに張られているし、
覆面の主人と判別不能の焼死体が登場しているのだから、
入れ替りトリックを第一に考えなくてはいけないのにもかかわらず、
僕はまったく何も考えずに読み進めてしまった。
解決編の着地も見事だが、それ以上に魅力的なのはラスト。
幻視者であった画家の描いた絵が初めて明らかになる。
そこにははるか昔に悲劇的な結末がすでに予言されていた。
僕はオカルトの信奉者ではないし、
そういったオカルトめいたオチで終らせる推理小説を何よりも嫌っているが、
これにはちょっと背筋が凍る思いをさせられた。
まして殺人者である正木はどれほどの戦慄を覚えたことだろう。