念願の詩集を出版し順風満帆だった婚約者の突然の自殺に苦しむ相場みのり。
健診を受けていないのに送られてきたガンの通知に当惑する佐藤まどか。
決して手加減をしない女探偵・葉村晶に持つこまれる様々な事件の真相は、少し切なく、少しこわい。
※ねたばらしありの感想です。ご注意を。
「プレゼント」の続編にあたる。
どこか投げやりで、あまり感情を表に出さない晶。
シニカルでクールで蓮っ葉で、でもそのわりに情に厚い女探偵。
それは若竹七海さんの作品の特徴そのものという感じがする。
都会的で、冷めた語り口。
でも。
というか、だからこそ。
その素顔を見てみたくなる。
そんなところが、若竹作品に似ている気がするのだ。
一番印象に残るのは、第二話の「詩人の死」。
友人・みのりの婚約者が自殺する。
死んだ西村は、詩集としては快挙ともいえる五千部を売り上げた「桃源郷崩壊」を書いた詩人であり、資産家の父を持っていた。
しかしその父には事あるごとに反撥。
また、みのりの母にもその結婚を反対されていた。
彼の死は「資産家としての死」なのか「婚約者としての死」なのか「詩人としての死」なのか、その理由を葉村は探る。
(この短編集はとにかく自殺の理由を探るというのが多い)
詩集が出版にまでこぎつけたのはどうやら父の力らしい。
そのことをみのりの母親に突きつけられても動揺する必要はない。
出版されたことが父の力であっても、実際に詩集は売れたのだ。
つまり、詩集には五千人のファンがついているということなのだ。
しかしラスト一行でその事実さえもひっくり返される。
そこで明かされるその真実はかなり衝撃的。
西村の父親を訪ねた葉村は、そこで予約注文のまとめ買いでかき集められた五千冊の「桃源郷崩壊」を見る。
いや、本当に皮肉だよな。
自分のアイデンティティーを根こそぎ刈り取られたような気分になる。
自殺をしても……おかしくはない。
全編、こんな調子でラスト(もしくはラスト近く)で衝撃的な謎の解明がある。
シニカルなラストの衝撃。若竹七海の特徴が最も出ている一作。