犯人当て小説から近未来小説、敬愛する作家へのオマージュから本格パズラー、そして官能的な物語まで。目眩くアリス・ワールドのカオス。
縦横無尽に張り巡らされた16の罠。
※ねたばらし感想ですので、未読の方はご注意を。
「ガラスの檻の殺人」
「気分は名探偵」というアンソロジーにて既読。犯人当て小説を集めたアンソロジー。
ナイフ一本くらい、どうとでもなるだろうという感想はそのときと変わりませんでした。
せまい部屋の中に隠すならばともかく、街中でナイフを隠すのはそんなに難しくないような……あまり犯人当てに向いているシチュエーションとは思えないのですが。
ミステリとしての面白さはともかくとして、犯人当て小説としては余詰めがありすぎる気がします。
「壁抜け男の謎」
「ガラスの檻の殺人」と違い、こっちはすっきり綺麗にまとまっている感じがしますね。
動機はけっこうありきたりだし、トリックそのものも単純。
でも、その組み合わせ方と表現でいくらでも面白い作品になるという好例です。
「下りあさかぜ」
あくまで、個人的な感想ですが、時刻表ミステリ、全然好きじゃありません。
好きじゃないというよりは興味がないというほうが正確でしょうかね。
この作品でも時刻表部分はすっ飛ばして読みました。それで面白く読めるわけはないですよね。
「キンダイチ先生の推理」
横溝正史先生が自宅からほど近い場所で一休みするために腰掛けたという岩。なぜ、家に帰り着くまであと一歩のところでわざわざ休憩したのか?
その謎の答えはとても興味深く、面白いものだと思いました。
僕は創作者ではありませんし、大横溝の心境をわかるというのは不遜かもしれませんが……これはあり得るなって思いました。
その推理と殺人事件をうまく絡めた作品。良く出来ていると感じました。
「彼方にて」
中井英夫さんの「虚無への供物」――未読です、残念ながら。
それで読書好きを公言するなよと言われそうですが……そんな本ならいくらもあります。
あの名作も読んでないしあの有名な作品も読んでない。
って、自慢すんなよ。
それでもこの作品はわりと面白かったです。「黒鳥譚」を読んでいたらもっと面白かったんだろうな。
「ミタテサツジン」
あとがきで著者自らが「ふざけた作品」と言っています。
もちろん、この言葉を額面通り素直に受け取ることはできませんが、僕も「ふざけた作品だ」と思いました。
面白くも何ともない、出来の悪いパロディです。
こういう作品を時々書くから、有栖川有栖さんという作家がよくわからなくなるんですよね…。
「天国と地獄」
トリックそのものはこれ以上ないくらいに使い古されたもの。
もちろん、たった五枚のショートショートに画期的なトリックなど望むべくもないことは重々承知していますから、それを非難するつもりはさらさらありません。
登場人物は「天国と地獄」のエピソードからこのトリックを思いついたようですが……どうやらこの人はミステリというものにまったく関心がなかったようですね。
ミステリ好きの僕からしたら、そんなヒントなしでも思いつくだろこんなもん、ってところですが。
「ざっくらばん」
アイディアとしては面白いですね。オチもうまいこといってます。
もっと違う料理の仕方がいろいろありそうで…興味深いアイディアです。
「屈辱のかたち」
プロの作家さんたちはどれほど評論というものを気にしているのでしょうか。
売れ行きそのものは気にするでしょう。それで飯を食っているのだからそれは当然です。
それを気にしないというのなら、その人はプロではありませんし、作品を発表する意味もありません。
けれど、評論家がどう評価するかというのは…作家さんたちにとってどれほど意味があることなんでしょうかね?
評論にせよ、解説にせよ、「それはただの粗筋だろ」とか「何言ってるかわかんねえよ」というものが多くて、僕自身はあまり気にしません。
そもそも、その本が良いとか悪いとか、面白いとかつまんないとか、そういうのは主観以外の何ものでもないですしね。
「猛虎館の惨劇」
「新本格猛虎会の冒険」というアンソロジーにて既読。
このアンソロジーは有栖川有栖さん以外にも北村薫さんや黒崎緑さんら熱烈なタイガースファンの作家陣によるミステリの競演。
ところで、このアンソロジーが出版されたのは03年春。確かにタイガースには優勝のムードがありましたが……まだ何も果たしていないうちにこのお祭り騒ぎって…。
こんなことは他のチームのファンなら絶対しませんよ(笑)
「Cの妄想」
メタフィクションってヤツですね。
アイディアとしては面白いとは思うけど…ただそれだけって感じで好きじゃありません。
メタミステリというのは下手をすれば単なる悪ふざけに終わってしまう場合が多いし、読み終わった後に何の印象も残りません。
この作品はそうでもないけれど、それでも単なるお遊びの域を出てはいないですね。
大体、新聞紙上だから意味があるのであって、本になっちゃったら成り立たない作品だし。
「迷宮書房」
「本からはじまる物語」という、本にまつわる物語のアンソロジーにて既読。
誰もが知っている宮沢賢治の「注文の多い料理店」にミステリエッセンスを加えた作品。
「注文の多い料理店」は僕も大好きです。
論理的整合性に欠けるところが有栖川有栖さんらしくありませんが、童話ってのはそれでいいのかなって。
「怪物画趣味」
訳のわからない作品だなあというのが読後、最初の印象。
この短編をプロローグ的な位置づけにして、人物を描きこんで、もっと深く掘り下げたら面白くなるのかな?
いやいや、それはさすがにないな。少なくとも、有栖川有栖さんが書くべき作品じゃないでしょ。
「ジージーとの日々」
近未来SF…ってことでいいのかな? こういうのも書くんだね。
ミステリ作家さんらしい仕掛けが施してあるあたりが有栖川有栖さんらしさを残してはいますけども。
「震度四の秘密」
「秘密。 私と私のあいだの十二話」というアンソロジーにて既読。
両面からひとつの物語を描くという設定をうまく活かしている作品ですね。
内容は、現実に起こりえてもおかしくないような、ちょっとシニカルな内容。現実でも小説でも女性の方が一枚上手ってことかな。
「恋人」
津原泰水さん監修の「エロティシズム12幻想」にて既読。
有栖川有栖さんが官能小説って……違和感あるなあ。でも雰囲気出てますね。悪くないです。
恋した少女が自分の年齢に近ければと思うのではなく、自分自身が彼女と同じ年頃の少年であったならと願うのは、何となく理解できるような気もします。
いや、駄目だろ、理解できちゃ(笑)