「星降り山荘の殺人」 倉知淳 講談社 ★★★☆ | 水底の本棚

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日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

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本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

雪に閉ざされた山荘。ある夜、そこに集められたUFO研究家、スターウォッチャー、売れっ子女流作家など、一癖も二癖もある人物たち。

交通が遮断され、電気も電話も通じていない陸の孤島で次々と起きる殺人事件…。果たして犯人は誰なのか?


星降り山荘の殺人 (講談社文庫)


とてもオーソドックスな犯人当てですね。


嵐の山荘ものですが、奇をてらったミステリよりもこういうシンプルだけど凝っている作品が好きです。


本格ミステリとしての純度が高ければ高いほど好み。


まあ、ときには変化球も悪くないですけどね。


登場人物は、主人公の青年・杉下、スターウォッチャーという肩書きを持つ星園、不動産業を営む岩岸、その部下である財野、作家の草吹あかね、その秘書の麻子、UFO研究家の嵯峨島、女子大生のユミと美樹子。

岩岸が経営する山中のキャンプ場に、宣伝のために招待されたメンバー。

最初の夜、岩岸が殺され、吹雪にまかれ下山を阻まれる中、次の夜は財野が殺害される。
そして三日めの夜、ついに探偵役による謎解きが始まる。


ここまでは、もういかにもなパターンですよね。



※ここからはねたばらし。未読の方は読むのをやめてくださいね。



いやあ、すっかり騙されましたね。

章の始めには常に作者(神の視点)によるナレーションが入り、星園が登場する章ではこう書かれている。


そこで本編の探偵役が登場する。探偵役が事件に介入するのは無論偶然であり、事件の犯人ではありえない


こりゃ、誰だって探偵役は星園であり、星園は犯人から除外されると思いますよね。

おまけに星園は自分が解決したいという過去の迷宮入り事件の話までする。

星園を探偵役としたシリーズ化さえ想像してしまいましたよ、僕は。

ところが、犯人は星園。で、真の探偵役は麻子。

例の「本編の探偵役が登場する云々」の章で、麻子もちょろっと(本当にちょろっと!)登場しているんですよね。

キレイに騙されました。

ある種の叙述ミステリと言ってもいいでしょう。お見事です。

事件の解決自体もパズラーとしては合格点。

動機は後づけでわかり、伏線もありませんが、それでも効果的な出し方のおかげでアンフェア感はないです。


ミステリーサークルを作った動機付けがいまいち強引かなと思いましたが、それ以外はかなりすっきりしていて、正統派という感じでしたね。

ミステリーサークルはなくても良かったんじゃないかなあ。

UFO研究家の嵯峨野の存在を絡めたかったのかもしれませんが、ラストシーンで十分、存在感を出していましたしね。