二年に一度開かれていた同窓会の当日、メンバーの一人が殺され、被害者のはめていた腕時計が消失。
いったいなぜか…。
火村の示した間然するところのない推理に「犯人」が最後に明かした「動機」とは。
表題作ほか謎解きの醍醐味が堪能できる超絶の全四篇。国名シリーズ第七弾。
※ねたばらしを含む感想です。未読の方はご注意を。
「あるYの悲劇」
ダイイングメッセージもの。
「山崎」の読み方さえ知っていればあっという間に分かってしまうフーダニットだ。
なにしろ犯人の名前を直接被害者が言っているのだから。
ダイイングメッセージものは大抵の場合、不可解なメッセージを残す意味がない場合や、とても死に際に思いつくことができなそうな複雑さを伴っていて、どうもスッキリしないものが多い。
でもこの作品については被害者が非常にシンプルにメッセージを伝えようとしているが、受け手が誤解して複雑になるというスタイルになっている。
有栖川有栖さんのダイイングメッセージものは駄作が多いが、この作品はアリだなと思える。
「女彫刻家の首」
自分のアリバイトリックのために、美容院に行って髪型の変わった被害者の首を持ち去らなくてはならなかったというトリックがミソなのだが、その代わりに彫刻の首を置く、という必然性が全くないのが残念。
「裁いていいと、誰がてめぇに言ったんだ」と吐き捨てる火村のセリフは相変わらずだ。
「シャイロックの密室」
倒叙もの。
犯人の視点から読んでいると、どうしても犯人の心理になってしまう。
ましてやこの被害者のシャイロックにまったく同情すべき点がないのだから尚更だ。
だから、火村の快刀乱麻の推理ははっきり言って憎たらしく感じる。
人の苦労を易々と見破りやがって、という気分になってくる。
まあ、それはともかく、このトリックはちょっといただけない。強力な磁石って…ねえ。
これ、正直言って僕が思いついても小説にはしないかな…。
「スイス時計の謎」
著者が「ストレートな犯人当て」と評するように、本当にド真ん中まっすぐのストレート。
「割れたスイス時計の風防」と「持ち去られた被害者のスイス時計」という二つの前提条件に、五人の容疑者それぞれが持つスイス時計の条件を合わせると、消去法で犯人が浮かび上がるという純粋なフーダニット。
非常に気持ちよくすっきりと読めた。こういうの、かなり好きかも。
ここまで犯人当てとしての純度が高いと、小説を読むというより、パズルでもやっているような気分になるのだが、アリスが小説を書き始めた日のエピソードなどを盛り込んで物語としての魅力も保持している。