「夢は枯れ野をかけめぐる」 西澤保彦 中央公論新社 ★★★ | 水底の本棚

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本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

四十八歳、独身。

早期退職をして静かな余生を送る羽村祐太のもとには、なぜか不思議な相談や謎が寄せられる。

「老い」にまつわる人間模様を、シニカルな語り口と精緻なロジックで本格ミステリに昇華させた、西澤ワールドの一つの到達点。



夢は枯れ野をかけめぐる (中公文庫)



ある意味では、西澤保彦らしさの無い作品。


西澤保彦には、西澤保彦の論理と倫理観があり、時々それがぶっ飛び過ぎていてついていけないときがある。

っていうより、そういうの結構多い。


一方、本作は極めてノーマル。

ロジックもかなり真っ当だし、短編ミステリとしてはとてもきれいにまとまっていると思う。


そのぶん、内容としてはヒジョーに地味なのだが……。


いろいろと考えさせられることは多いかも。

若い人よりも、三十代以上の読者のほうが共感すべき部分は多いだろう。


介護をする側。

介護をされる側。

心配をする側。

心配をされる側。


どのサイドにいても感じることは何かあるのではないか。



老いるということ、死ぬということは必ず誰にでもやってくる。


できることなら、誰にも迷惑をかけずに老いたい。

できることなら、たった一人ではなく、誰かに看取られて死にたい。


そんな風に、しみじみと思ってしまうのだなあ。

こういうミステリもありっちゃあ、ありだ。