「Story Power」 (新潮社)
文芸雑誌を買うことはほとんどない。
たとえ、好きな作家さんの読み切りや連載が載っていても――いや、載っているならなおさら。
だって、その人の本はどうせ買うから。
でも、ついついこのシリーズ(?)は購入してしまう。
だって有川浩さんの作品が読めるから。
長年の習慣をも変えさせてしまうほど、どうやら僕は有川作品に夢中になっているらしい。
今回収録されているのは「ヒア・カムズ・ザ・サン parallel」。
上司が主人公に「そろそろ仲人をさせろ」と詰め寄るシーンからはじまり、相変わらずのベタ甘恋愛ストーリーだな、と安心して読み進めるのだが……。
主人公が「僕は触れたものに宿った想いを読み取ることができる」と告白するシーンにぶつかり、おいおいサイコメトラーかよと驚かされる。
今まで有川作品に超常現象はたぶん出てこなかった。
………。
あ、ウソだ。
塩の結晶が空から降ってきたり、海からでっかいザリガニが上陸したり、ステルス戦闘機ばりの能力を持った空飛ぶ怪獣が出てきたりしてた。
でもさ。
少なくとも、人間側は超能力を使ってないよな。
だからちょっと驚いた。
でも終わってみれば、やっぱり有川浩さんの作品だった。
楽しかった。
ところで。
このアンソロジーの表紙にはこんな言葉が書かれている。
今こそ物語の力を、物語に力を――
そして、まえがき。(一部抜粋)
編集者の仕事は、原稿を依頼することであり、その作品を広く届けることである。
優れた物語を贈ることで、元気を出してもらったり、前向きな気持ちになってもらったり、短い時間でも楽しい気持ちになってもらえないだろうか、とそんな気持ちがこの企画の出発点になっている。
だから、別冊のタイトルもストレートに「物語の力」とした。
今いる場所でできることをしよう、とここには書かれている。
僕らは物語の力を知っているし、信じている。
震災の直後でも、心温まるほんわかした物語ばかりが売れたわけではない。
グロくて、救いようのないミステリやホラー、サスペンスだって変わらず売れていた。
僕らのいる東京は東北地方に比べたらたいした被害があったわけじゃないけれど、それでも余震や計画停電で不安な日々を送っている人たちはたくさんいた。
でも小説は売れた。
サスペンスやホラーやミステリを「不謹慎だ」と非難するのではなく。
そういう物語を愉しむ余裕がある世の中だといいねと考えたい。
作家さんや版元さんが今できることを今いる場所でしようとするのなら。
僕らにできることは、たくさんの人にたくさんの物語を届けることだ。
というより、それしかできない。
できることが少ないと逆に楽。
がんばろ。