「下町ロケット」 池井戸潤 小学館 ★★★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

その特許がなければロケットは飛ばない――。
大田区の町工場が取得した最先端特許をめぐる、中小企業vs大企業の熱い戦い!


かつて研究者としてロケット開発に携わっていた佃航平は、打ち上げ失敗の責任を取って研究者の道を辞し、いまは親の跡を継いで従業員200人の小さな会社、佃製作所を経営していた。
下請けいじめ、資金繰り難――。
ご多分に洩れず中小企業の悲哀を味わいつつも、日々奮闘している佃のもとに、ある日一通の訴状が届く。
相手は、容赦無い法廷戦略を駆使し、ライバル企業を叩き潰すことで知られるナカシマ工業だ。
否応なく法廷闘争に巻き込まれる佃製作所は、社会的信用を失い、会社存亡に危機に立たされる。
そんな中、佃製作所が取得した特許技術が、日本を代表する大企業、帝国重工に大きな衝撃を与えていた――。

会社は小さくても技術は負けない――。
モノ作りに情熱を燃やし続ける男たちの矜恃と卑劣な企業戦略の息詰まるガチンコ勝負。

さらに日本を代表する大企業との特許技術を巡る駆け引きの中で、佃が見出したものは――?
夢と現実。社員と家族。かつてロケットエンジンに夢を馳せた佃の、そして男たちの意地とプライドを賭した戦いがここにある。



下町ロケット





直木賞作品で久しぶりに面白い本に出会えた……と言ったら、他の作家さんたちに怒られそうですが。
でも本当にそう思ったんですよ。


昨年の受賞作「月と蟹」が道尾秀介さんの作品でベストワンだと思う人はたぶん少ないだろうし。
(個人的には「カラスの親指」か「ラットマン」あたり…かな?)

「漂砂のうたう」(木内昇)や「小さいおうち」(中島京子)もいま一つピンときませんでしたし、北村薫さんの「鷺と雪」にいたっては「何もこれじゃなくてもいいだろう」と本気で思いました。


正直言って、直木賞というのは何度もノミネートを繰り返してその上で「そろそろ受賞させてやってもよかろうか」という感じで与えられる功労賞的なものだと僕は思っているので、まあそれでいいのですが。


でもねー。
この「下町ロケット」は本当に面白かったんです。


わかりやすく言うとですね。


ベタ甘恋愛要素を抜いて登場人物の平均年齢を上げた有川浩さんの小説。

(わあ。ものすごい勢いで反論がきそうだ。でもそう思ったんだもの。いいじゃん)



もともと男の子というのは小さい頃からヒーローものを見つけているせいか、「巨悪VS主人公」という構図が大好き。
その「巨悪」がとてもムカツク相手だとなお良し。
そして主人公が苦戦しつつ、最後はぐうの音もでないほどに「巨悪」を叩き潰してくれるともっと良い。


この「下町ロケット」はそういう「勧善懲悪」の単純明快なストーリーをそのまま地でいく物語。
下町の中小企業が技術力だけを武器に、大資本の上場企業相手にケンカを挑むという……本当に小気味良い作品なんです。


企業小説と言ってしまうと、どうも堅苦しい印象があるし、あまり明るいイメージはないですよね。
でもこの小説は違う。

だって社長が「カネの問題じゃない。夢とプライドの問題なんだ」とか言っちゃうんですよ?

特許売って大儲けするよりも、自分たちが作った部品でロケットを飛ばすことに夢見ちゃったりするんですよ?

もう企業小説というよりは青春小説と言ってもいいんじゃないかと。


ちなみに、ここで「夢なんかよりオレたちの食い扶持のことも考えてくれ」と言う社員が出てきたりするんですが、こっちの気持ちもジツはわかるんですよねー。
高校生くらいの頃に読んだら、こいつバカかとか思ったかもしれないですけれど。
お金を稼いで食べていくということは、綺麗事ではないって知ってしまっていますからね。


だからこそ。
こういうシンプルに夢を追っていく物語が楽しいのです。


明日への活力が欲しい方。
ぜひオススメ。