「食堂かたつむり」 小川糸 ポプラ社 ★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

おいしくて、いとおしい。
同棲していた恋人にすべてを持ち去られ、恋と同時にあまりに多くのものを失った衝撃から、倫子はさらに声をも失う。
山あいのふるさとに戻った倫子は、小さな食堂を始める。それは、一日一組のお客様だけをもてなす、決まったメニューのない食堂だった。
巻末に番外編を収録。



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映画化の影響でウチの書店でも飛ぶように売れています。
ポプラ文庫がこれほど売れることってそんなにはないなー。


書店員が書くオススメのポップよりも、何と言ってもテレビを中心としたパブリシティ。無力さを実感します。
って、ひがんでいる場合じゃありませんね(笑)


読了しての感想は「なんでこれを映像にしようと思ったのかな」っていうこと。

これは明らかに小説として読んで面白いものでしょう。

見栄えのする画があるわけじゃないし、ストーリーに激しい起伏があるわけでもない。
これで二時間保たせようと思ったら相当内容を変えなければいけないんじゃないかなあ。


倫子が作る数々の料理はまるで夢のようにおいしそう。
一日にたったひと組のお客様しか取らず、そのわりにはずいぶんと高価な食材を使っているようだし、どうやって生計が成り立っているのかなあ…とか疑問に思ってしまう「食堂かたつむり」ですが、そういうところも含めて、この物語はファンタジーなのだと思います。


ところが、ファンタジーのわりにはずいぶんと下世話な話が直接的表現で出てきたり、飼育していた(ほとんどペットと化していた)豚を屠殺するシーンが生々しく描かれていたり……なかなかつかみどころのない作品でもあります。


と言って、大人のファンタジーというにはちょっとシンプル過ぎるし、ペットの豚を食べて「エルメス(豚の名前ね)は自分の中で生きている」的な発想が出てくるあたりもどうも浅すぎる気がするし……。


生きていくってことは食べることと同義だし、食べるってことは必ず他者の命を奪うってことで、それはもう仕方のないことだし、それが生命のサイクルなのだからいいとかわるいとかの問題ではないと思うんですよ。


ただ、それを自分に都合の良い奇麗ごとにするのはあまり好きじゃないなあ。
「エルメスは消えてなくなったわけじゃなくて、形を変えただけだ」なんていうのは、人間側の自己満足でしょう。食べられる豚の側にしてみれば「おいおい勝手なこと言うなよ」って話ですよね。


そういう意味においても……これは子供向けの物語なのかもしれないですね。(ポプラ文庫だし!)
うん。そう考えると納得。
教訓めいたエピソードも、ステロタイプのエンディングも、ファンタジックな設定も。


でもそのわりには「うまいふぐ食わせたんだから、一発やらせろ」とか出てくるしなあ……。


うーん、評価の難しい小説ですわ。