「ダブル」 永井するみ 双葉社 ★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

若い女性が突然、路上に飛び出し、車に轢かれて死亡した。事故と他殺が疑われたこの事件は、被害者の特異な容貌から別の注目を浴びることになった。
興味を持った女性ライターが取材を進めると、同じ地域でまた新たな事件が起こる。真相に辿り着いた彼女が見たものは――。
かつてない犯人像と不可思議な動機―追うほどに、女性ライターは事件に魅入られていく。新たなる挑戦の結実、衝撃の長編サスペンス。




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じわっとくる怖さがこの物語にはあります。

普通にしていたら世間の人々と何も変わらない、いやむしろおっとりとして可愛らしい感じの女性、乃々香。
まるで害虫を駆除するのと同じ感覚で気に入らない人間を排除できる感覚――彼女の邪気のない悪意、罪悪感の欠如には戦慄を覚えました。


その乃々香を追う雑誌ライターの多恵。
彼女はひとかどの物書きになりたいと願い、必死に事件を追います。
多恵は自立心を持った働く女性であり、ごく当たり前の感覚を持った常識人でもあります。
その対比がこの物語の眼目ですね。


二人の女性の静かなる戦い。
一方はそれを戦いだとすら思っていないところがまた面白いのですが。



(※以下の感想にはねたばらしを含むかもしれません。未読の方はご注意を)




僕は男なのでその感覚があまり理解できませんが、友達母子というのはよく見かけますね。
まるで友達のような感覚で趣味を共有したり、悩み事を相談したり……。


こういう母子の場合、母親の側に娘を庇護してあげたいという欲求はあっても、「教育をしてやろう」という意識はまるでありません。
「教育」というのは少なからず上の立場の者が下の立場の者に行うのであって、同等の立場にいる者が行うことはできません。せいぜい、アドバイスや手助けができるくらいで。


「教育」という概念が失われたまま成長してしまった母子は一体どうなるかというと、本作に登場する二人のようになる――というのはさすがに極端な例でしょうけどね。


多恵の頑張りや周りの人たちの協力で、乃々香の母親は早晩、捕まるでしょう。
けれど乃々香には法律上の罪はまったくない。母親にいずるや森を殺してくれと頼んだわけでもないから、殺人教唆すら成立しない。


だから、乃々香はきっと無事に子供を産むでしょう。
そして、自分が母親にしてもらったように、我が子を甘やかし、護ってあげるのでしょう。

負の連鎖は終わらない――そんな気がしました。