謎と不安に満ちた、これまでにない青春小説。
ナナミとクニコ、二つの物語が交わったとき、驚愕の事実が!
あなたはこの仕掛けを見破れるか?
僕が今までに読んだ永嶋恵美さんの二作品、「転落」そして「せん―さく」は、どちらもミステリというよりはサスペンスに分類される作品だと思います。
(もちろんそこに明確な線引きはないのだけれど)
そして両者はミステリとは呼べない作品であるにもかかわらず、極めてミステリ的な仕掛けが施してあるのが共通点。
サスペンスフルな展開に本格ミステリ的仕掛けのアクセント。
これはまさに僕好みの作品だし、本作も同系列の内容らしいと聞き、楽しみにページを開きました。
タイトルの「ふたつの夏」は普通に考えればナナミとクニコを指す。
離れたところに住む旧友の二人を時々かわすメールだけが繋いでいる。そんな二人の「夏」が交わるとき、何かが起こる――。
その「何か」が一体何なのかが知りたくてページをめくる手がなかなか止められませんでした。
でも。
その期待は半分満たされ、半分は裏切られたように感じました。
(※以下、感想にねたばらしを含みます。未読の方はご注意を)
仕掛けられた叙述トリックは悪くないと思うのですよ。
使い古された手法ではあるけれど、物語の途中でナナミの行動に覚えたいくつもの違和感――彼女が大学で友人を作らない理由とか――がすべてすっきりと消え去って、納得の結末を迎える。
その点はいいと思うのです。
でもね。
ミステリの面白さは、一見無関係そうに思えていたパズルのピースが、エンディングを迎えると、きっちりとあるべきところに収まって一枚の絵を作り出すところにあると僕は考えています。
ところが、本作では絵が一枚にならないのです。
パズルのピースは全部きっちりおさまる。でも、完成したパズルはなぜか二枚。
そんな印象を受けます。
クニコ側のエピソード――旧友が自分のせいで死んでしまったという過去――はメインとなるストーリーにはまったく関係がないと思うのですよ。
正直言えば、このエピソードがなくても十分に物語は成立するはずです
しばしば名前が登場する妹の桃花もそう。
彼女もまた、この物語には「いてもいなくてもどうでもいい存在」。
名前は頻繁に登場するのに、なかなかご本人登場の機会がなかったので、ここにも何か仕掛けがあるのではないかと余計な勘ぐりをしてしまったほど。
「転落」や「せん―さく」にも言えることだけれど、この作者が描く物語は無駄な贅肉がつき過ぎていると思います。
シンプルであることが良いとは決して思わないけれど、贅肉がつき過ぎるのはいけない。無駄な肉をそぎ落とし必要な筋肉だけを残すことが重要でしょう。
ついつい、偉そうな感じになってしまいましたが……叙述トリックが鮮やかに決まっているだけに、そのことがとても残念なのです。
物語はリーダビリティもあるし、永嶋恵美さんという人はたぶん一皮むければもっと良いものが書けるような気がするのだけれど。