「キケン」 有川浩 新潮社 ★★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
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本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

危険な奴らが巻き起こす、熱血(?)青春(??)物語。えっ、理系男子って皆こんなにアブナイの?


成南電気工科大学にある、「機械制御研究部」なるサークル。ここは、その活動における様々な伝説や破壊的行為から、「キケン」と称され、忌み畏れられていた。「キケン」はまさしく、危険人物に率いられた特殊集団であり、犯罪スレスレの「実験」を行うことすら日常であった。これは、その黄金時代を描いた物語である。




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大学という場所と、大学生という人種は本当に特殊なんだなーと改めて実感した。
自分がそこに属していたときには決してわからなかったけれど。


中学生や高校生というのは紛れもなく子供。

彼らにはたくさんの枷があるし、将来への不安もある。自分が何者かもよくわからなくて、いつも何かに追い立てられているような落ち着かなさがある。


一方、社会人は年齢に関係なくれっきとした大人。社会のルールを遵守しなければならないし、生活のことも気にしなければいけない。いくつかの責任も生じる。


でも、子供でも大人でもない、まさにその中間に位置しているのが「大学生」という人種。

受験レースからは解放され、それなりに遊べる程度のお金も稼ぐことができ、就職するまではまだ時間がある。世間の目も高校生までとはうってかわって厳しくない。何よりキャンパス内は治外法権地域のようなものだ。


そんな自由を、抜群の行動力と奇抜な発想とおおいなる遊び心を持った理系男子に与えてしまったらこうなる――というお話。


大学を学問をする場だとはほとんど認識していなかった「ごくフツーの大学生」であった僕にとっては彼らのエピソードのいくつかはとても懐かしく思えるものだった。
(もちろんキケンの連中とはスケールが違うけれども!)


きっと、かつて大学生であった人たちのほとんどが「ああ、そういうのあるよね」とか「その気持ちわかるよなあ」とか、そんな風に感じながら読むことができるだろう。


これぞ、「男の子たちの」青春ストーリー決定版。部員に女子を混ぜなかったのは(まあ理系学部だし混ぜようも

なかったのでしょうが)、有川浩さんの慧眼。女子が混じるとたぶんこういう破天荒なストーリーにはならないでしょう。ブレーキがかかるからね。


「キケン」では一応、副部長の大神と一回生の元山クンがブレーキ役にはなっているのだけれど、相当に遊びの部分が大きいブレーキで、かなり強く踏み込まないとブレーキがかからないという…。

と言っても、そのブレーキを限界点まで踏ませるようなことをやってのけるのがユナ・ボマーの二つ名を持つ部長の上野なんだけれども。


大学で何らかのサークルに入っていた人、必読。
彼らの危なくて破天荒で常識外れで、でも愉快で楽しい学生生活をご堪能あれ。