朝出勤すると、遅番の社員がまとめておいてくれた出版社からのファックスの束が僕の机の上に乗っていました。
もちろん、それはいつもの風景。
でも、その一番上に乗っていたファックスは何かの悪い冗談のような内容でした。
サリンジャーの訃報。
サリンジャーは隠匿生活に入ってからも、小説を書き続けていたと言われています。
だから、彼の書斎には、膨大な量の未発表作品が眠っているとも言われています。
もちろんそれを読みたいと思います。
でも同時に、永遠に人の目に触れないのならばそれもまたいいかなとも思うのです。
サリンジャーの描く物語の一番の読者はたぶん彼自身。
誰に見せずとも、世間から正当な評価を受けることがなくとも、それでもきっとサリンジャーは物語を書く。
自分自身のために。
いち読者の勝手な想像です。
でも当たっているのではないかと思っています。
永遠に作家であり続けたサリンジャーのご冥福をお祈りいたします。
蛇足。
もちろんそのファックスを見た後、すぐに白水社に電話をかけて、村上春樹さん訳の「キャッチャー・イン・ザ・ライ」を注文したのは言うまでもありません。
作家の死すら書店員には販促機会。
笑えないジョークのようですが、これを機会にサリンジャーの作品を手に取る人が少しでも増えればいいなと思ったのも本当ですから、それで許してほしいなあ。