(この記事に出てくる貸金業法改正案に関しては慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスにて2018年春学期に開講されている「憲法(統治)」の講義内で行われる模範議会で扱う法案であり、完全なフィクションであることをご理解ください。)

 

本日の講義では今回政府より提出された「貸金業法の一部を改正する法案」に関して趣旨説明を行う。

また、この法案に関するメディア班の考えは明日の第5講で述べるため、ここでは割愛する。

 

では早速だが、今回提出された法案を原文通りに記載する。

 

『貸金業法(昭和五八年法律第三二号)の一部を次のように改正する。

第二条二号に「ただし、個人向けに無担保で金銭の貸付けを業として行うものを除く。貸付けの形式に関しては内閣府令でこれを定める。」を加える。』

 

どうだろう。原文ママではかなり難解なものであるので、解きほぐして解説する。

そのためには昨日に講義した貸金業法の平成18年改正に関して復習しなくてはならない。

 

まず、平成18年当時の貸金業を巡る状況を思い出そう。当時は①利息制限法②出資法と呼ばれる二つの法律により、利息が制限されており、その二つの法律には刑事罰があるかないかという違いが存在した。その中で「片方の法律には違反しているが、刑事罰とはならない利息」の範囲が存在し、それをグレーゾーン金利と呼んだ。

 

また、当時は複数の金融機関をまたがって融資を受けることが認められており、総額が途方もない金額となることもあり、これらを多重債務者と呼び、この多重債務者の破産や借金苦による自殺などが大きな社会問題になった。

 

そんな中、この状況を改善すべく貸金業法は改正されたのであった。

 

具体的には、グレーゾーン金利を廃止するため、基準を最大利息20%に統一し、より厳罰を導入した。

加えて、多重債務者の解消を目的に「総量規制」と呼ばれる制度を導入した。この制度は、全ての貸金業者から借りれる金額の合計を年収の3分の1までに限定することで、返済が無理なくなされることを目的にしたいたのだった。

 

ここまでが前回の復習である。問題ないだろうか。

 

ではここからこの改正案によって生じた影響を①貸金業者側②借り手側の二つの目線で考えてみよう。

 

①貸金業者側について

まず貸金業者は本改正案の成立によって多大な損害を被ることとなる。その被害は2つに大別できる。

第一に、過去の清算である。これまでグレーゾーン金利目一杯を使った高金利で貸し出しを行っていた貸金業者に対して、裁判所がその金利分の返還を命じたことを皮切りに、これまで貸金業者を利用して来たかつての借り手により「過払い金請求」といった形で返還を求める申請が多発した。これにより、貸金業者は多額の金額を支払うこととなり、その経営状況は逼迫したものとなった。これがかの有名な貸金業者である「武富士」の倒産につながったとされる。

第二に、その後に渡る経営損失に関してである。平成18年に行われた貸金業法の改正により、これまで行っていた高金利での融資が不可能となったほか、総量規制により全体としての融資総額が減少したことで、いずれの理由からも融資継続が難しくなった。

以上2点より、貸金業者側が損害を被ったことはまぎれもない事実であり、その後貸金業は衰退の一途を辿ることとなる。

 

②借り手側について

借り手に関しては、その保護を目的として改正が行われたこともあり、知らず知らずのうちに多重債務者となる危険性が減少したことに加え、当時多重債務者となることは本人の責任であると言う自己責任論が大きかった風潮の中、その構造に問題があったと法案改正によって認めることで、多重債務者の心理的な負担を減少することができたとする見方がある。

しかし、裏を返せば総量規制の導入により、より大きな金額を借りることができなくなり、本当に多額の融資を受けることが必要な人に融資を行うことができなくなり、欠点があると言う見方も存在する。

 

従って貸金業者・借り手双方にとって本法案の改正は決して喜ばしいものではなく、かつ多くの問題をはらんでいる。

 

この中で今回の改正に至った事態を抽出して解説する。

 

総量規制の導入により、貸金業から多くの融資を受けられなくなった個人が貸金業の対象となっていない銀行が扱う「銀行カードローン」という商品を用いるようになった。では、この「銀行カードローン」とは一体何か。

 

銀行カードローンとは、国内の銀行が加盟する全国銀行協会では「個人向けの無担保融資、つまり担保をつけないでお金を貸すローンです。本人の確認と個人信用情報に

応じて無担保でお金をかりることができ、分割で返済することが可能な融資となります。」と説明されている。

ポイントは3つである。①個人向けであること(法人向けではないこと)②無担保であること(通常融資では担保を取ることが多い)③本人確認と信用情報があれば容易に融資を受けられること(最短30分などのフレーズ通りに、通常融資を受ける際に必要となる長時間の審査を経ずに、融資を受けることができる)。この3つに注目すると、これらの商品はこれまで貸金業者が扱って来た金融商品と同じであり、高金利であるものの、容易に貸付が受けられるものである。

これらのメリットを武器に、広告を多分に用いながら、銀行カードローン貸付残高は順調に伸びていった。

 

一見すると、何も問題がないように見える。

しかし、この銀行カードローンも大きな問題が二つ存在する。

 

①非常に高い金利

 

2016年に日銀が行ったマイナス金利政策によって法人などへの貸し出しは平均0%台と非常に低い金利で貸付が行われているが、対照的に銀行カードローンは14.5%(注1)を目安とした非常に高い金利での融資を行なっている。

 

注1:銀行カードローンの金利に関して公式発表している銀行や調査機関がないため、正確な数字はわからないが、株式会社Ateam Lifestyle Inc.が運営するキャッシング・カードローン総合検索サイトによると、ボーダーラインとして14.5%が表示される。この数字に明確な根拠があるかは正直不明だが、同企業は銀行カードローンの購入を促すサイトであること(もっと言えば、銀行よりの企業であること)、さらに発行までの迅速性を考慮すれば14.4%という数字は決して違和感のあるものではないことなどを考慮してこの数字を用いた。

 

②明らかな過剰な貸付け

 

まず銀行は貸金業法の対象ではないがゆえに総量規制などの制約を受けないことを留意したい。すると、銀行の経営・営業上、高金利での貸付を行うことは必至である。

 

では、その具体的な現状に関して、朝日新聞が全国銀行協会に対して行なったアンケート調査を用いて説明しよう。

 

アンケートは120行に送付され、うち101行が回答した。その中で96行が銀行カードローンを扱っており、これは外資銀行・信託銀行を除いた都市銀行・地方銀行は銀行カードローンを扱っていることを示している。

その結果、約8割の銀行が貸金業法では禁止されている年収3分の1以上の貸付を行なっており、そのうち23%の銀行が、年収さえも超える貸付を行っていることが明らかになった。

 

一つ実例をあげよう。

 

借り入れ当時の年収が356万円の40代女性に対して、銀行が433万円を貸し付けたケースがあり(借り入れはこの銀行のみ)、形成26年10月ごろに自己破産。

(出典:日本弁護士連合会が2017年6月〜7月に実施したアンケート調査)

 

以上の説明からわかる通り、これらは通常貸金業法の対象となる金融機関では違法となるものであり、現法体制より逸脱した事態であると考えられる。

 

よって銀行を貸金業法の対象とすることで、銀行カードローンによるこれらの問題点を解決しようと言うのが、本改正案の趣旨である。

 

これらに対するメディア班の意見や討論は明日、第5講で解説する。