このところ、リニア中央新幹線静岡工区が着工できないのは静岡県(川勝知事)が悪いと印象付けるための記事がやたらと目に付く。

小林一哉氏や小倉健一氏の書く雑誌記事はもとより、週刊誌や全国紙、挙句の果てに事情が分かっているはずのテレビ静岡などの静岡県内のマスコミまでがこれに加担している。

当ブログでは、テーマ・リニア中央新幹線で403件、リニアとメデイアで56件の記事を書いてきました。

そして、その記事を基にリニア中央新幹線の深層に迫ってみたいと思います。

 

☆国交省有識者会議(水資源)

リニア中央新幹線静岡工区について、これまで静岡県とJR東海との間で行われてきた議論等を科学的・工学的に検証し、その結果を踏まえて今後のJR東海の工事に対して具体的な助言、指導等を行っていくための、「リニア中央新幹線静岡工区 有識者会議」を開催。

・・・と国交省のホームページに目的が記載されている。

 

第1回有識者会議での金子社長の冒頭挨拶抜粋

私どもは、中央新幹線が有益な事業であるからと、環境保全を軽んじるつもりは全く ない。しかし逆に、県も南アルプスの環境が重要であるからといって、あまりに高い要求を課 して、それが達成できなければ、中央新幹線の着工も認めないというのは法律の趣旨に反する扱いになるのではないかと考えている。

 

第2回有識者会議での発言抜粋

(JR 東海・宇野副社長)

 ・ 今般、国土交通省のお骨折りで、4月27日に有識者会議が発足したところであるが、その 際、弊社社長の挨拶での発言に対して、静岡県、大井川流域市町、利水関係者の皆様から抗議 を受け、国土交通省から、科学的・工学的な議論を行う会議での発言としては、そぐわないとして、ご注意を頂いた。これについては、大変申し訳なく、重く受け止めている。 

・ この反省に立って、この会議で科学的・工学的な議論が進められるように、説明責任者として、真摯に対応してまいる。それを通じて、問題の解決が進み、静岡県、大井川流域市町、利 水関係者の皆様の、ご心配の解消につながることを期待している。 

・ 有識者会議の委員の先生方におかれても、引き続き、ご多忙のところ、大変お世話をおかけすることになるが、ご指導のほど、よろしくお願い申し上げる。 

(福岡座長)

 ・ 是非よろしくお願いしたい。冒頭、私からも、第 1 回会議での金子社長からの発言に関し て、一言申し上げたい。 

・ 私は静岡工区のこれまでの経緯を詳細に把握しているわけではないが、前回の会議における社長の挨拶を聞いた時は大きな違和感を感じていた。その後、静岡県から抗議文が発出さ れ、さらに国交省からJR東海を注意する事態となった。このようなことは、有識者会議での議論とは全く関係ないことであり、誠に遺憾である。 

・ 私は、第1 回会議の冒頭挨拶で、「JR東海には、自らの正当性を主張するような説明では なく、いかに理解していただけるかとの視点での説明を求めたい」とお話しさせていただいた。

 ・ 私は、この有識者会議が、大井川の水資源問題等の重要な課題を、科学的・工学的にしっか りと議論する場であるとのことで、座長を引き受けた。そのためには、関係者が信頼関係に基づいて議論できる環境が維持される必要があると考えている。 

・ JR東海には、今後二度とこのように会議の進捗を妨げるようなことがないようにしてい ただきたい。

 ・ また鉄道局においても、科学的・工学的な議論に集中できるような環境が整えられるよう、 事務局としてしっかりとマネージメントをして欲しい。

 

有識者会議中間報告の抜粋

JR東海の設備計画上は、現時点で想定されているトンネル湧水量であれば、 工事期間中(そのうち、先進坑貫通までの約10ヶ月間)を除いて、導水路トンネル等 によりトンネル湧水量の全量を大井川に戻すことが可能となることを確認した。

導水路トンネル等でトンネル湧水量の全量を大井川 に戻せば、中下流域の河川流量が維持されることが示されている。 ・ これらのことから、トンネル掘削による中下流域の地下水量への影響は、河川流量の季節変動や年毎の変動による影響に比べて極めて小さいと推測される。

山梨県境付近の断層帯を 山梨県側から上り勾配で掘削することに伴い、工事期間中(そのうち、先進坑貫通まで の約10ヶ月間)は県境付近で発生するトンネル湧水が県外流出する。静岡県は工事期間中(そのうち、先進坑貫通までの約10ヶ月間)も含めてトンネル湧水の全量を大井 川に戻すことを求めており、このトンネル湧水を戻さない場合は全量戻しとはならな い

・ JR東海は、中間報告の内容を十分に理解し、有識者会議におけるこれまでの助言・ 指導等を踏まえて作成した取組み資料に基づき、水資源利用への影響の回避・低減に 関する取組みを適切に実施すべきである。また、大井川の水利用をめぐる歴史的な経緯や地域の方々のこれまでの取組みを踏まえ、利水者等の水資源に対する不安や懸念を再認識し、今後、静岡県や流域市町等の地域の方々との双方向のコミュニケーションを十分に行うなど、トンネル工事に伴う水資源利用に関しての地域の不安や懸念が払拭されるよう、真摯な対応を継続すべきである。

 

斉藤国交大臣発言

○ 中間報告で取りまとめられた内容のうち、JR東海において は、特に、 

・トンネル掘削等に伴うリスク対応とモニタリングを実施すること 

・大井川の水利用を巡る歴史的な経緯や地域の方々のこれまでの取組を踏まえ、地域の不安や懸念が払拭されるよう、 真摯な対応を継続すること 以上、指導する。

 〇 本事業は、公共性が極めて高く重要なプロジェクトであることを踏まえ、 

・本事業を進めるにあたり地域の理解と協力が欠かせないことを十分に認識すること 

・地域に対し、真摯に向き合った対応をすることを求める。

 

☆国交省有識者会議(環境保全)

有識者会議中間報告の抜粋

論点ごとに、影響の予測(仮説の設定)・分析・評価、保全措置、モニタリングのそれぞ れの段階で、実施すべき事項を予防的に行い、結果を各段階にフィードバックし、必要な見直しを行う、いわゆる『順応的管理』で対応することにより、トンネル掘削に伴う環境 への影響を最小化することが適切である。また、必要に応じて論点横断的に対応することも重要である。 以下、特に記述がない限り、対策を講じる主体は建設主体であるJR東海である。

・ JR東海においては、本有識者会議における議論等を通じて醸成された環境保全についての意識を、経営トップをはじめ社内全体で共有し、第2章で整理された環境保全措置やモニタリング等の対策に全力で取り組むと共に、静岡県や静岡市等の地域の関係者 との双方向のコミュニケーションを十分に図ることが重要である。更には、本プロジェ クトに限らず、南アルプスの自然環境の持続可能な利活用に資する取組みなど、南アル プスの環境保全の様々な取組みに積極的に貢献し、これらの取組を積極的に情報発信することが期待される。

 

斉藤国交大臣発言

○ 国土交通省としては、対策が着実に実行されているか、継 続的に確認するので、本報告書で取りまとめられた内容にし っかり取り組むことを貴社に求める。中でも特に、

 ・有識者会議における議論等を通じて醸成された環境保全 についての意識を、社内全体で共有し、本報告書で整理さ れた環境保全措置やモニタリング等の対策に全力で取り 組むこと 

・地域の関係者との双方向のコミュニケーションを十分に図 ること 

・本プロジェクトに限らず、南アルプスの自然環境の持続可 能な利活用に資する取組みなど、南アルプスの環境保全 の様々な取組みに積極的に貢献し、これらの取組みを見 える形で示すこと を求める。

鉄道:リニア中央新幹線静岡工区 有識者会議について - 国土交通省 (mlit.go.jp)

 

☆認可時の太田国交大臣会見(抜粋)

南アルプストンネル等、難易度の高い工事が想定されているところです。
このため、JR東海に対しては、今後事業の実施にあたって、特に3つの事項の確実な実施を求めたいと思います。
一つ目は、地元住民等への丁寧な説明を通じた地域の理解と協力を得ることです。
二つ目は、国土交通大臣意見を踏まえた環境の保全です。

三つ目は南アルプストンネル等における安全かつ確実な施工です。
国土交通省としては、事業の安全かつ円滑な実施が図られるよう、引き続き、JR東海を指導・監督してまいります。

大臣会見:太田大臣会見要旨 - 国土交通省 (mlit.go.jp)

 

☆認可時の石原環境大臣意見(抜粋)

【2】水環境
・地下水位や河川流量について、精度の高い予測を実施、影響を最小限化する工法を採用。
・工事実施前から地下水位や河川流量を把握。工事実施後までモニタリングを実施。
・水資源に影響を及ぼす可能性が確認された場合は、まず応急対策を講じた上で、恒久対策としての措置を実施。
・湧水については、水質、水量等を管理し、適正に処理。湧水を放流する際には、表流水への影響を回避・低減すべく、できるだけ多地点で放流。
・沢及び河川等の表流水からの工事用取水を最小化することにより、生態系への影響を回避・低減。

【3】動物・植物・生態系
・南アルプス国立公園及び拡張予定地の影響をできる限り回避。
・ユネスコエコパーク登録申請地の資質を損なうことがないよう配慮。
・クマタカ等の希少猛禽類の繁殖活動への影響の回避・低減。
・河川流量の減少に伴うヤマトイワナ等の水生生物について、水系ごとの生息状況等のモニタリングと措置を実施。
・サンショウウオ類等の移動力が低い動物について、移動経路の確保及び移植等の措置を実施。
・夜間照明等による野生生物への影響を把握。
・希少な植物について、生息地の回避を原則とし、移植等は計画を作成し実施。

中央新幹線(東京都・名古屋市間)に係る環境影響評価書に対する環境大臣意見の提出について(お知らせ) | 報道発表資料 | 環境省 (env.go.jp)

 

以上、リニア中央新幹線の取り組みについて、国交省のホームページから抜粋したものであるが、最近のメデイア報道は

「あまりに高い要求を課 して、それが達成できなければ、中央新幹線の着工も認めないというのは法律の趣旨に反する」・・・と有識者会議で発言し、その後国交省や有識者会議の委員から注意を受け謝罪したJR東海金子社長の発言をなどった報道になっている。

 

☆川勝知事と金子社長の面談

川勝知事とJR東海金子社長は面談の中で対立構造(環境=静岡県と経済=JR東海)にはないと明言している。

部分開業については50分ごろ取り上げている。

メデイアが伝える記事の印象との違いを実感できるだろう。

リニア中央新幹線静岡工区に係る川勝知事とJR東海金子社長の面談 | ふじのくにメディアチャンネル (pref.shizuoka.jp)

 

☆総括

JR東海は自己の正当性の強調から静岡県の意見に耳を傾けるように変化した。

その理由は国交省有識者会議の効果である。

しかし、有識者会議が言わんとするところが理解できないメディアは相変わらず同じ道を辿っている。

静岡工区の工事着工はプロローグに過ぎない、工事が進むにしたがって難問が顕在化する。

そもそも、リニア中央新幹線南アルプストンネルが建設可能だとした根拠となった東海北陸道飛騨トンネルは河川より高い位置で水を抜けたことが完成の理由だった。

リニア南アルプストンネルは河川より低い位置でトンネル湧水を抑えながら工事することから当てはまらない。

最大難関の連絡工事(静岡県内の山梨工区)はJR東海が計画している高圧大量湧水が見込まれる先進坑、本坑トンネルの工事期間が10ヵ月では出来ないことが実証されるだろ。

当ブログでは導水路工事着工から本トンネル完成まで20年を要すると想定している。

勿論、工期だけではなく工事費も数倍に増額されるだろう。

当然、JR東海独自の対応には無理があり、国や沿線自治体からの支援が求められる。

その時、マスコミは過去の報道を忘れ、JR東海の批判へと舵を切るであろう・・・

 

参考

東海北陸道飛騨トンネル

延長:10.7km

工期:先進坑掘削開始から貫通まで9年4か月

リニア中央新幹線南アルプストンネル

全体延長25kmのうち静岡県内分10.7km