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死神の精度
伊坂幸太郎
文春文庫


一週間の調査の後、対象者に死の可否の判断をくだす死神が主役の短編集。
対象者は、苦情処理の電話対応係や、任侠のヤクザ、片思いの青年や凶悪犯や美容院を営む老女などである。
死の可否の判断の明確な基準は特になく、大抵は「可」の判断がなされ、死が実行されるのだが、時に死神の気まぐれによって「否」が出される事もある。
死を扱う物語とはいえ、過剰にシリアスであったりドラマチックであったりする事もない。
結末がはっきり描かれる事もなく、そこは読者の想像力に委ねられる部分が大きいのだが、伊坂は読者に想像させるのが上手い作家でもある。
個人的に好きな話は、「死神の精度」、「恋愛で死神」の2つ。
全体的に言うと、ミステリー仕立ての話が多いので、飽きさせる事もなくどれもそれなりに面白い。
死神、若しくは宇宙人でも何でもいいのだけれど、人間以外にとって人間とは、興味深い生物ではあるが、どうしても人間である以上は人間基準で考えざるを得ない。
視点を異化したからといって、現実に何かが変化するわけではないが、少しは固定化した概念を打ち破るきっかけにはなるのかもしれない。
物語の役割は、現実逃避だけではなく、日々の生活に対する考え方などに色々な角度を与える事でもあるだろう。

(2011~2014年頃、執筆)

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グラスホッパー
伊坂幸太郎
角川文庫


伊坂幸太郎がハードボイルド小説を初めて書いた、というのがこの作品。
内容は、令嬢という会社の社長の長男に、妻を殺された元教師の鈴木の復讐の物語である。
しかし、あまり重苦しくない内容に仕上がっているのは、所々にユーモアのある会話がある故であろう。
鈴木と自殺専門の殺し屋の鯨、そしてナイフ使いの殺し屋の蝉の3人の話が入れ替わる形でストーリーが展開し、最後に収束する。
鍵となるのは、令嬢の社長の長男を殺害したと思われる押し屋の男である。
話の中で、その後の展開が読める伏線と読めない伏線があるのだが、今回は分かりやすい部類の伏線が多かった。
小説のタイトルになっているグラスホッパー。
押し屋の男が、バッタは群衆相になると凶暴化し、そして人間はバッタに近いという話から付けられたものだが、小説に登場する3人の殺し屋とはあまり関連性が感じられない。
人間は一人一人では弱いのだが、集団化による凶暴性という観点で考えるなら、インターネットを使っている日常で、実感する事は多いだろう。
そういった集団心理について、書かれた小説があれば面白いのではないだろうか?
閑話休題、とりあえず伊坂の小説の中では完成度が高いとは言えないものの、そこそこ楽しめる内容にはなっている。

(2011~2014年頃、執筆)

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重力ピエロ     
伊坂幸太郎
新潮文庫


家族とは何か? 単なる遺伝子の繋がりの事なのか?
そんな事を考えさせられる作品である。
話の内容自体は、非常に暗い。
しかし、それを敢えてユーモアでもって明るく軽く伝えようとしている。
この軽妙な感触は、ほとんどの伊坂作品に共通しているが、今回の作品が特に顕著に表れている。
「本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ」という春の台詞があるが、全体を通して伝えたい事もそこにあるように思える。
遺伝子の謎解きのルール自体は、ミステリーとして解釈するなら、非常に分かりやすいトリックではあるが、それ以外の様々な知識の引用やユーモアで、最後まで飽きさせる事なく読み続けられる。
間違いなく傑作である。

(2011~2014年頃、執筆)

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