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青の炎  
貴志祐介
角川文庫


倒叙推理小説と呼ばれる形式は、解説から引用すると次のような形式である。

普通のミステリーは、まず事件が起こり、警察あるいは探偵役が捜査に乗り出し、犯人の行動や動機を推理して事件を解決する。
しかし、倒叙もののミステリーでは、まず、前半で犯人が完全犯罪を計画する形で、あらかじめ手の内を明らかにする。
その後、計画を実行し、それが成功したかに見えた時点で、今度は逆に警察や探偵の側が捜査を開始して、犯行を暴き、事件を解決する。
つまり、ストーリーの展開の仕方が、普通のミステリーとまったく逆なので、倒叙とか、倒叙推理小説というわけである。
    
湘南の高校に通う櫛森秀一は、母が10年前に再婚し、家に居座り家族の幸せを壊そうとする男を殺害する計画を立てる。
そして、計画は成功したように見えたが・・・。
ここからが、倒叙した形式で推理されていく。
事件の謎が解明していくというよりは、何故、警察機構は犯罪を突き止めたのかという謎が、徐々に解明されていく仕組みの為、主人公の櫛森に感情移入をして読んでいると、だんだんと重苦しくなってくる。
そして、最後のシーンも文学的である。
そもそも犯罪の計画さえ立てなければ上手くいっていたはずの人生であり、そこにやり切れなさを感じ、逆にそれがまた主人公の櫛森への感情移入を助長する。
何となくだが、古谷実の漫画にも共通するような不条理さというか、そんな感じの読後感が残る。
恋人の紀子の存在が青春小説の色合いを濃くして、そこに起こる非日常的な悲劇性を強調する為であろうか。
いずれにせよ、貴志祐介の最高傑作と呼んで遜色の無い出来である。そして、いつものストーリーの合間に雑学を挿入するセンスも、個人的に好みである。

(2011~2014年頃、執筆) 

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チルドレン  
伊坂幸太郎
講談社文庫


伊坂幸太郎の短編集。相変わらず面白い。ここで言う面白いというのは、単純に笑えるシーンが多かったという意味。
伊坂作品では、やはりキャラクターの位置付けの重要性が肝である。
砂漠に登場する西嶋にしても、このチルドレンに登場する陣内にしても、キャラクターだけでストーリーが成立しそうなほどの破天荒で、尚且つ愛されるべきキャラクターによって、読者に笑いを提供している。
短編は、5つの作品で構成されており、バンク、チルドレン、レトリーバー、チルドレンⅡ、インと、話が全て繋がっている。
盲目の青年、永瀬の推理力が最初のバンクから輝いているので、推理小説としても十分楽しめる。
しかし、家族関係の話で心温まるというか、恐らく日本中で家族関係がある程度上手くいっていない人に対して、カタルシスを与えているんじゃないかなという感想を持った。
武藤と陣内が扮する家裁調査官という職種が、世の中、綺麗事だけでは渡れないという事を、身を切るように感じさせられる仕事なのだろうけど、その中で、直情径行の陣内の破天荒キャラが我々に爽快感を与えるのではないだろうか。
「俺たちは奇跡を起こすんだ」と、奇跡というよりも自分の感性をひたすら信じて突き進む、陣内の行動力。
それはマニュアル通りに真面目に仕事を行う人間よりも、ずっと人の凝り固まった心を融解させる。
全体的に、話の長さもテンポも今回は丁度良く出来ているというか、最高傑作とまではいかないけれど、これを嫌いな人はいないだろうなと思わせる作品。

(2011~2014年頃、執筆) 

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光の帝国  
恩田陸
集英社文庫


「常野」と呼ばれる土地から来た人は、それぞれに不思議な能力を持っているが、彼らは知的で権力の志向を持たず、普通の人々に埋もれて暮らしている。
そんな常野一族を巡る連作短編集。
常野一族は、膨大な書物を暗記したり遠くの出来事を知る力を持っていたりするが、戦時中に国家がその力を軍事力に活かそうとして一族を捕らえようとする。
常野一族は、軍に壊滅させられそうになるが、生き残った少数の人々が散り散りになって何とか今も生存している。
そして、常野の不思議な能力を、何か大きな事を成し遂げるために使う時期が来ているんじゃないか、とやがて悟る時が来る。
短編の中には、「草取り」のような社会風刺として読みとれる作品もあるが、全体を通して読むと、もっと身近なところで大切な何かに控えめに気付かせるようなテイストになっている。
個々の短編の設定が長編向きで、作者も元々は長編用に書いた作品でもあるので、何か話自体にあっけなさを感じもするのだが、よくある日本のSFの短編と少し違うのは、人間を描く事を重視している点であろうと思う。

(2011~2014年頃、執筆) 

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ALL YOU NEED IS KILL
桜坂洋
集英社スーパーダッシュ文庫


ハリウッド映画化される予定でもある桜坂洋の代表作。
「よくわかる現代魔法」と比べると作風が大分違うのもあるけど、こちらはかなり完成度が高いと思われる。
戦争で何回死んでもループしてやり直しが出来る設定を東浩紀が批評していたが、ゲーム世代以降なら直感的に感じ取れる何かがあるんじゃないかと思う。
勿論、現実とゲームの世界では全然違うのだが、我々は実際の行動に於いては、ゲーム脳やゲーム的リアリズムに夥しく影響されている。
この作品は、小説を読みながら、自分自身の環境を意識させる事が可能であるという事を意図的に行っていると思われるが、それを日常に置き換えて考えてみると、色々と見えてくるものがある。

(2011~2014年頃、執筆) 

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