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変身  
東野圭吾
講談社文庫


軽い文体が読みたくなったところで、東野圭吾。
以下はあらすじ
絵描きが趣味の平凡な青年、成瀬純一は、不動産屋に部屋を探しに行ったときに、強盗に襲われ頭を撃たれる。
そして、彼の頭には世界初の脳の移植手術が行われた。
撃った犯人はあくまで復讐が目的であり、犯行後にビルの屋上から金をばらまいて自殺するが・・・。

まず、この小説は個人とは何か?というものを訴えている。
脳の1/10だけしか他人と交換していなければ、それはまだ自分自身と言えるかもしれない。
しかし、全部脳を交換してしまえばそれは自分自身ではない。こういった臓器移植等をする場合、特に脳の場合、どこまで保たれていれば自分自身と言えるのか?
脳内で認識される事実が自分自身と世界の全てであるのだが、それまでの過去の経験や遺伝子レベルの特性などで、人間の感じ方や考え方というものは大分変わる。
そして、感じ方が変わって以前の自分自身では無くなったとしても、人は生きていたいと思うものだろうか?
それは実際に、そうなってみないと分からない。
しかし、人間は人との係わりによって自分のアイデンティティーというものを保っており、周囲の人たちにとっても非常に繊細で難しい問題であろう。
また、人体実験としての脳移植の危険性についても、考えなくてはいけない。
特に組織が絡んでいる場合、重大な人権侵害が陰で内密に行われる可能性について。
自分が自分である事の大切さについて考えさせられる作品でもあるし、アイデンティティーについて考えたい人にはお勧め出来る。

(2011~2014年頃、執筆)

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予知夢  
東野圭吾
文春文庫


探偵ガリレオはずっと以前に読んだ事があって、あっさりしていた印象が残っているが、今回の作品もわりあい淡泊だが、オカルト要素が強いせいかファンタジー感があって悪くない感想が残る。
泣けるストーリーの類は無く、オカルトめいた殺人事件等が起きて、それについて物理学的に湯川教授が解明していくというストーリー。
この中では、一番最初の夢想るが、一番出来が良いと思える。
途中から犯人が分かってしまう話もままあるけど、夢想るはわりといい意味でのどんでん返しがあった。
ただトリックは面白いけど、以前に読んだガリレオと同様にストーリーが頭に残らない。
トリックもあまり現実的とは言えないしね。予知る、騒霊ぐ、絞殺る辺りは勧善懲悪的で、読後感はわりと良い。
一気読みするよりは寝る前に、一つずつ短編を読了させていく方をお勧め。

(2011~2014年頃、執筆)

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十三番目の人格(ペルソナ) ISOLA
貴志祐介
角川ホラー文庫


賀茂由香里はエンパシー(感情移入)の能力を持っており、人の強い感情を読み取る事が出来る。
ユングは人間の精神の機能を論理、感情、感覚、直感の4つに分類したが、この中で桁外れのパワーを持つのが感情であり、感情だけが無意識の心のエネルギーを解放出来るらしい。
阪神大震災後、由香里はボランティアで被災者のPTSDなどの心のケアをしており、その時期に西宮の病院に入院している森谷千尋という少女に出会う。
千尋は多重人格障害だった。
正確には、解離性同一性障害といい、以前は多重人格障害と呼ばれていたものらしい。
それで、幾つもの人格(合計13人)の人格が出てきて、最も表に長く出てくる人格をホスト人格というらしいが、多重人格の描写は面倒くさい上に、あまり面白味が無い。
わりと淡々としている。最も危険な人格は、磯良(イソラ)と呼ばれる雨月物語の「吉備津の釜」に出てくる怨霊の名前である。
一般に多重人格は過去に受けた精神的外傷の記憶や、支配的な意識から抑圧された観念などが、心の深層に沈殿しやがて肥大化して独立した人格として振る舞うようになったものである。
エクソシストという映画では、悪魔払いのシーンが出てくるが、この悪魔の人格に相当するのが磯良である。
治療としては、それら多重の人格を一つに統合させる事が最終目標ではあるが、十三番目の人格の磯良が、正体不明の不気味さを持って立ちはだかるという訳。
磯良の正体はと言えば、その後はデスノート的な展開に・・・。臨死体験、幽体離脱へと・・・。
全く現実感の湧かないオカルトな設定でも怖いと思えるかどうかが、この作品の好き嫌いを決めるのでしょう。

(2011~2014年頃、執筆)

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