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プリズム
貫井徳郎
創元推理文庫
貫井自身が自分の作品を読むならデビュー作の「慟哭」にして欲しいと語っているが、僕が最初に買って読んだのがこの作品で、まぁまぁ満足している。
ミステリの始祖、エドガー・アラン・ポーの3つの短編は、その後のミステリのあらゆるパターンの源流となっている。
「モルグ街の殺人」は密室殺人と意外な犯人を、「盗まれた手紙」は人間の盲点を衝く発想を、「マリー・ロジェの謎」は推論構築の面白さを後続の作家たちに示した。
「マリー・ロジェの謎」を直接的に引き継いだ作品としては、アントニイ・バークリーの「毒入りチョコレート事件」が挙がる。
推論の構築と崩壊だけで構成されるこの作品はあまり結末を重要視せず推論の構築の面白さに重きが置かれている。
また「マリー・ロジェの謎」や「毒入りチョコレート事件」の後継の作品とされており、バークリーに対するオマージュ的作品でもある。
この作品には、謎解きとしてのカタルシスは無いが、本来作者が握る決定権を読者に委ね、読者自身が新しい解決策を考案する事が出来るという楽しみがある。
読者にとっても能動性の高い作品と言えるだろう。
本編の内容としては、誰からも慕われている美人教師の山浦美津子が自宅の中、遺体で発見される。
死因は置き時計によるものと思われる頭部の打撲。
司法解剖の結果、彼女の身体から睡眠薬が発見され、自宅の窓にはガラス切りで開けられた穴が開いていた。
状況から考えると他殺の線が強い。事件の真相は被害者にまつわる4人の人物が推論を持って解き明かそうとし、それぞれ4つの章に分かれている。
それぞれの章の人物は自分の感情を納得させる為に事件を解決させようとする。
タイトルのプリズムとは、光の屈折・分散などを起こさせるのに用いるガラスなどの三角柱の事であり、それぞれの章の人物による視点が被害者、容疑者、関係者と転換が生じる所をプリズムに例えているのである。
次の章に移るときに今まで容疑者と思っていた人物が、主観的な視点に移り変わり、事件の謎を解き明かす側に回るわけだが、そこに今まで読んだミステリに無い意外性があって面白い。
関係者がしっかりとした推論を立てているので、その推論の構築を読むだけでも十分楽しめる。
事件というのは真相が解明すればそれで良いという物ではなく、関係者による欲望や怨恨が絡んだ様々な願望が秘められているという事を、改めて再認識させられた。
(2011~2014年頃、執筆)
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手紙
東野圭吾
文春文庫
普段はこの手のジャンルを読まないんだけど、SFや古典ばかり読んでいた為、気分的に最近の売れ線の読みやすい本でリフレッシュしたくなり、とりあえず東野圭吾を読んでみた。
これが、自分としては新鮮味があって意外と面白かった。
とりあえず粗筋から。
兄の剛志は弟の直貴の大学進学の費用を工面する為に、強盗殺人犯を犯してしまう。
その後、直貴は兄の件もあり進学を諦め、モーター部品を解体する仕事に就くのだが、そこで白石由美子という女性と出会う。
この女性がとても気立てが良くて素晴らしい女性なんだな。
その後、大学に通ったり、バンドでプロを目指したり恋人が出来たりと頑張ったのだが、兄が強盗殺人犯という事がばれてしまい上手くいかない。
就職にも響いて希望通りの所に就職出来ない。
と、前半の粗筋はこういったところだが、前半は泣けました。
その後は、差別について考えさせられる内容なんだけど・・。
直貴はその後、電機メーカーに就職する。手紙の返事は兄に送っていないはずだが、何故か兄の手紙には就職の祝いの言葉が書いてあった。
白石由美子がこっそりと手紙を受け取って、返事を書いていたのだ。
直貴は最初はパソコン関係の接客業をしていたが、ある日、夜中に強盗が店内のゲーム機等を盗んでいった。
その犯人は店内のセキュリティに詳しく、犯行は店員が関係していると疑いが持たれた。
そこで、また直貴と兄の過去が明らかにされてしまったのだ。首にされそうになったが、物流部に人事異動という形で会社に留まる事が許される。
そして、色々と良くしてくれた由美子と結婚する。
子供も出来て公園で遊んだりしていたが、子供も差別されるようになり、直貴は兄と縁を切る事を決意する。
そして、バンド仲間だった寺尾と慰問コンサートという形で、兄の前で「イマジン」を歌う事になるのだが・・・。
個人的には、由美子が直貴には内緒で、兄に手紙を書いていたシーンが心に残った。
差別には立ち向かっていかなくてはいけないという由美子の台詞。
そして、社長は差別は無くならないが、社会的な死からは生還できる、人との繋がりの糸を一本一本増やしていこう、と励まされるシーンが特に印象深かった。
ただ現実は理想通りにはいかない・・・。そこが差別を通してこの話が抱える深いテーマである。
(2011~2014年頃、執筆)
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涼宮ハルヒの憂鬱
谷川流
角川スニーカー文庫
ライトノベルというものが大体どんなものなのかを、知っておきたくて読んだ作品。なるほど、大人のファンが居ることも頷ける。
挿し絵は思ったより少なく必要最低限。
ディティールとして会話の中身がハードSF傾向になっている。
また、ハルヒ以外の朝比奈みくるの萌えキャラや、長門有希の綾波系の不思議キャラも非常に立っていて、これはキャラ設定の勝利であろう。
宇宙人、未来人、超能力者の3人ね。
話自体にリアリティは全くないのに、リアリティを感じさせるような描写もレベルが高いと思う。
ライトノベルと侮る事なかれ。物語に非日常性を求める人にはかなり楽しめる。
しかし、私は物語に徹底したリアリティを求めるので続きを読むほどではないかと。
(2011~2014年頃、執筆)
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