すばらしい新世界
ハックスリー 松村達雄訳
講談社
今読むと流石に書かれた時代を感じさせるとはいえ、ディストピア小説としては、オーウェルの「1984年」と比較しても、遜色無い完成度の作品である。
ここで描かれるユートピアの世界では、ボカノスキー法と呼ばれる人工授精により、子供は全て試験管の中から生まれる。
その過程は、工場の流れ作業のようであり、条件反射教育と呼ばれる入眠時教育によって、エプシロンと呼ばれる階級の人間は、労働するのに都合が良いように洗脳される。
そして、ソーマと呼ばれる薬が配給され、人々は常に多幸感に満たされ、不満も争いも無い社会が成立している。
そして、子供は人工的に生産される為、フリーセックスが称賛されている。
ガンマ、デルタ、エプシロンとはっきりとした差別と階級が存在しているが、条件反射教育によって人々はこれで問題が無いと思っている。
オーウェルの暗く緊張感に満ちている、窒息しそうな世界観と比較すると、こちらは明るく平和なのに、窒息しそう不思議な世界観である。
作品の前半は、この世界に懐疑的なバーナードというガンマ階級の人間が主役だと言えるが、後半は、未開の野蛮の国からやってきたサヴェジが主役となる。
未開の野蛮の国での人々は、文明からほど遠い不便で不都合な生活を送っている。
そのサヴェジが文明化社会にやってきて感じた事は、ここは愚者の楽園であるという事だ。
そして、敢えてサヴェジは文明的で利便な生活を選ばず、不幸で不都合な生活を選ぶ事になる。この選択は、なかなか感動的であった。
そして、読み終わった後も、色々と考えさせてくれるところが私がSFが好きな理由でもあり、この作品は文学的にだけでなく、SFとしても素晴らしい作品と言えるだろう。
(2011~2014年頃、執筆)