デジタル社会はなぜ生きにくいのか 
徳田雄洋
岩波新書


政治的な内容というよりは、実際にインターネットやデジタル機器を使う上で、不便な点などが紹介されている。
デジタルになったからといって何でも便利になるわけではない、という事が実例を通して書かれているので参考になるだろう。
デジタル化、インターネット化によって起こされた様々な不具合は、大規模化したシステムの場合は社会的に大混乱を起こす。
我々はそういった日常を、想定内であり当然の如く見過ごす傾向があると思う。
というのも、システムのバグによる混乱は、もはや日常茶飯事化していているからだろう。
フェイスブックなどのSNSでの個人情報流出も記憶に新しい。
また二〇〇七年の日本の年金記録が誰のものか分からなくなった原因は、昔はカタカナ表記のみ可能なコンピュータで扱っていたデータを、漢字表記可能なコンピュータに移した為だと言われている。
だが、何故か元データである紙の記録については廃棄命令が出ていたらしい。

引用
デジタル社会には光と影がある。
まず光の面をあげてみよう。新しい産業や仕事が生み出され、経済活動が活発化する。
遠隔地でも色々なサービスを直接受けることが出来る。機器やシステムが自動化し便利になる。
大規模な情報が利用可能となり、地球上、いつでも、どこでも、誰でも、直接に通信し、情報や知識を共有できる。
一方、デジタル社会の影の面は次のようなものである。自動化や中間過程の消滅で人々の仕事が減る。
企業や店舗は広域的な市場競争にさらされる。公共システムの停止や障害で社会的混乱が発生する。
情報の大規模蓄積・流出・喪失や破壊行為により、個人生活や企業活動が脅かされる。

携帯電話と固定電話の性質の違いを説明してみよう。固定電話は定められた最寄りの電話局と固定的に電話線でつながっている。
したがって、他の電話機からその固定電話へ電話をかけたい場合、電話番号から定まる最寄りの電話局を経由して、その固定電話を呼び出すことになる。
ところが携帯電話へ電話をかけたい場合は事情が異なる。今この瞬間、相手が日本のどこの無線基地局のそばにいるかわからないからである。
そこで携帯電話は、電源を入れたときや一定時間ごとに、最寄りの無線基地局に向かって、「自分は今電源が入っている」という確認事項を入れ、最寄りの無線基地局と携帯電話との間で識別情報などのやりとりを行う。
携帯電話会社は、この確認連絡を一カ所に集めて、日本中の電源の入っているすべての携帯電話番号とその最寄りの無線基地局の対応表を作る。
携帯電話へ電話をかけたい場合、携帯電話会社はこの対応表を引いて、最寄りの無線基地局を知り、そこを経由して携帯電話を呼び出す。
したがって、マナーモードにしていても、携帯電話は一定時間ごとに、「自分は今電源が入っている」という確認情報を電波で発信する。
このときおよそ25センチメートル以内の至近距離に、もし心臓ペースメーカーなどを埋め込んだ人がいた場合、ペースメーカーの誤動作の原因となる恐れがある。
一部の携帯電話には、通信機能を完全にオフにする機能がある。
この場合、理論上は周囲に迷惑をかけずに、すでに受け取っていたメールをもう一度確認するなどの作業が可能である。
しかし実際上は、周囲の人にはその携帯電話が通信機能を完全にオフにしたものか、それとも普通の電源オンの状態なのか、区別がつかないのでやはり問題となる。

駅の自動改札機は、以前は切符や定期券の通過処理が基本的な役割だった。
しかし今日では、さまざまな新しいサービスの追加や試験運用が行われている。
クレジットカード機能やプリペイドカード機能との高度な連携をはじめ、登録使用者が自動改札機を通過するとその駅の周辺情報をメールで自動送信するサービスや、登録している子供が改札機を通過すると通過情報を親へメールで自動通知するサービスなどもある。
多機能サービスの一つの問題は、普通に駅を毎日利用しているだけでは、サービスの存在や度重なる改定に、なかなか気づかない事である。

ニセの無線LANサービス
空港のパンフレットの続きである。
「空港建物内では無線LANによる有料や無料のインターネット接続サービスが行われています。
しかし、その中には偽物の無料サービスが含まれている場合があるのでご注意下さい。
偽物のサービスの目的は、利用者が使うユーザー名やパスワードの収集です。
こうして収集された情報は悪用される危険性があります。
偽物のインターネットサービスは、ちょうど銀行の夜間金庫窓口のそばに、外見そっくりの偽物の夜間金庫窓口を並べて、利用者が誤って偽物の窓口へ預けるのを待ち構えている光景に似ています。」

かつて航空機に長時間乗る人々は、全員で同じ映画を見るか、一人でヘッドホンの音楽を聞くか、本や雑誌を読むか、居眠りするかであった。
やがて個人用ディスプレイが各席の前に備えられるようになると、一人一人が別々に映画やゲームを楽しむようになった。
この結果、全員で同一の映画を無理して見る必要はなくなった。
さらに今日では、個人用の携帯情報機器の中に、数千曲の音楽、数千枚の写真、数千冊の本、たくさんの動画、ゲームその他のソフトを保存し持参すれば、機内娯楽システムのお世話になる必要性もあまりなくなった。
携帯用の情報機器は多くの場合、電源を入れたときに無線LAN設定が有効になっていて、電波を出す状態になっている。
これらの機器の種類は増加する一方である。
そこで航空機の安全運行のために、二〇〇七年十月に日本の航空法が改正され、電波を出す状態の携帯電話、携帯音楽プレーヤー、携帯ゲーム機、ノートパソコンなどは常時使用禁止となり、電源を切ることとなった。
事前に通信機能をオフに設定した場合は、離着陸時は使用禁止で、巡航高度飛行中は使用可能となった。

ウェブサービス関数を使うと、比較的簡単なプログラムを作るだけで、ウェブ上の地図や天気や動画のサービスを自由に融合した新しいサービスを提供することができる。
このようにして出来たサービスをマッシュアップサービスと呼ぶことがある。マッシュアップとは、すりつぶして混ぜることである。
将来のウェブの目標とされているのは、プログラムや電気製品が、ウェブの内容を自動的に理解できるようにすることである。
文字列の照合技術だけでなく、付加されたデータから内容を理解できるようにしたいというものである。
この次世代ウェブのことを、セマンティックウェブと呼んでいる。

私たちは自宅からインターネットに接続するとき、接続会社と契約して接続費用を払っている。
この費用は通信量による従量制料金の場合もあるし、通信量とは無関係な定額料金の場合もある。
次にこの接続会社はどのようにインターネットに接続しているのだろうか? 実はこれらの接続会社も、もう少し大きな接続会社に接続しているのだ。
「大きな」という意味は、やり取りするデータ量が多く、接続する地域が広いということである。
そしてこれらの接続会社も、さらに大きな別の接続会社に接続している。
いずれの接続契約も、費用は通信量による従量制料金の場合もあるし、通信量とは無関係な定額料金の場合もある。
こうして何段階かを経ていくと、接続会社は地球上に有限個しかないので、やがて、他の接続会社に接続料を払っていない、とても大きな接続会社に到達するはずである。
実際、これらのとても大きな接続会社は九社程度存在し、相互に接続料金を取らない接続会社である。
これらの接続会社はインターネットの中心部分を構成していて、それぞれの会社のネットワークを第一段(ティア1)のネットワークと呼んでいる。

(2011~2014年頃、執筆)