結晶世界
J・G・バラード
創元SF文庫
バラードは「SFは宇宙に背を向ける必要がある」という有名な「内宇宙(インナー・スペース)」宣言により登場してきた、ニューウェーブを代表する作家である。
そのバラードの代表的な作品がこの「結晶世界」である。
バラードは、地球上に発生している様々な問題、大気汚染、環境問題、過密人口、内蔵移植、コンピュータ等の問題を、SFの中核とすべきであるというテーゼに則った、科学と文明の進歩を批判的に思弁する小説を書いてきた。
この作品もそうした思想に忠実に書かれた作品に違いない。
あらすじ
医師サンダーズは、人妻を追ってマタール港に到着したが、そこから先の道は閉鎖されている。
そして、翌日、港では奇妙な水死体が上がっており、死体の片腕は水晶のように結晶化していた。
結晶化していく世界の描写は美しい。森の中に入ってスザンヌと出会ってから、やっと話が面白くなっていく。
しかし、思っていた程には読んでいて憂鬱になったりなどしないし、内容的にはそんなに暗い話では無い。
ディストピア世界のもっと暗い話を期待していたが、ニューウェーブは全体的に、神話的な美しさが際立っていると思う。
難しい内容では無いけれど、感情移入がしにくいせいか読むのに難儀する。
結晶化していく世界とライ病に侵されていく患者は、似たようなものだとサンダーズは手紙に書いていたが、宝石のように輝いて朽ちていくのと腐敗した肉体を抱えて死んでいくのでは随分違う。
人間の理想としての永遠の死に場所として結晶世界は存在していて、時間の無い永遠の世界の終わりを人は望んでいる。
引用
「先生、気の小さい乗客がたが気付いてない事は、あなたの病院の外の世界だって、一回り大きなライ病院に過ぎんということなんですよ」
(2011~2014年頃、執筆)