グーグル的思考 
ジェフ・ジャービス
早野依子訳
PHP研究所


グーグル関係の書籍は幾つか出版されていると思うが、グーグルは何故、成功したのか? という疑問と、グーグルの仕組みについて、的確に分かりやすく答えてくれるのが本書である。
また、古い形式のマスメディアに対する批判や、オープンソースの利点なども書かれている。
グーグルの失敗を恐れずに挑戦していく姿勢や、アイデアを重視する戦略には勇気を貰える。
因みに、本書は2009年6月が第一版であり、情報はやや古い。
だが、これからのネット時代を生き抜くための術を吸収する為に、本書を読むことはお勧め出来る。

まず、インターネットがもたらした変化にどう対応していくか、という企業や個人としての問題がある。
グーグルは、自らの信条を「グーグルが発見した10の真実」として、ウェブ上で公開している。
「消費者に専念すれば、ほかのすべてはついてくる」「何か一つ本当に得意なことがあるのが一番だ」「遅いよりは速い方がいい」「不正をしなくても金儲けはできる」「情報は常に巷に溢れている」「情報に対する需要はあらゆる境界線を越える」などである。

また、インターネット時代の新しい常識のルールとして、以下がある。

引用

・主導権を握っているのは消費者のほうである。彼らの声は世界中に流れ、巨大な組織にも一瞬にして影響を及ぼすことができる。
・同じ意見を持つ者同士が、どこにいても一致団結することができる。彼らは、我々にとって味方にも脅威にもなりうる。
・マスマーケットはもはや存在しない。今あるのは、多数のニッチである。
・「市場とは対話である」。2000年、インターネット時代の幕開けを予感させた
「これまでのビジネスのやり方は終わりだ」(日本経済新聞社)のクルートレイン宣言で表明されたこの言葉は、組織で求められるスキルはもはやマーケティング力ではなく、対話力であることを意味している。
・我々の経済の基盤は、希少性から潤沢性へと移行した。もはや製品やその流通を掌握したからといって、それが利益の保証にはならないのである。
・今日の市場においては、商品の製造、流通、マーケティングといった過程において、消費者の協力を得ることが大きな武器となる。
・今日、最も成功している事業はネットワークとそのプラットフォームである。これらは、最小限の素材から最大限の成長を遂げている。
・流通ルート、人員、製品、さらには知的財産の所有は、もはや成功の鍵ではない。肝心なのはオープンであることだ。

インターネットは、中央集権を嫌い、秘密を蔑み、オープン性を尊び、独占して所有する事より連携する事を好む。
インターネットは、リンクによるネットワーク社会により価値観が築かれ、知識が育まれ、人間関係が形成されていく。

検索結果がクリックされればされるほど、グーグルの情報量は増え、情報量が増えれば増えるほど検索結果は正確になり、グーグルの使用頻度は上がるという仕組みだ。

グーグルを支えているのは広告だ。
グーグルは、あらゆる場所に広告を貼り、メディア業界や広告業界を圧倒するほど強大な広告ネットワークを築いた。
ここにもグーグルの好循環が存在する。グーグルが広告と一緒に情報を流せば流すほど、どんどんお金が入ってくる。
それらのサイトがお金を生めば生むほど、グーグルが整理すべきコンテンツが増えていく。
また、グーグルもマップやウィジェットや検索ページなどを提供することで、それらのサイトを支える。
グーグルがネットワークに養分を与えて、成長させているのだ。

プラットフォームとしてグーグルマップをオープンにすることで、様々なアプリケーションだけでなく、ビジネスも生まれた。
携帯電話会社は電話にグーグルマップを搭載し、PlaTial.comはグーグルマップ上にユーザー同士の共有領域を作り、お気に入りのレストランや宿を、地図上に表示できるようにした。
また、地図はブログやニュースサイトなどにも掲載出来る。

オープン性とは、ウェブサイトを持てばいいというものではない。
他人から見られている場所で行動を起こし、人々がそれに対して意見や助言を言ったり、友人に話したりする状況のことだ。

我々は皆、互いにつながりたがっている。インターネット時代を生きる我々は、非社交的であるというレッテルを貼られがちだ。
ノートパソコンを抱えてソファに座り、耳にはイヤホンをはめ、誰とも口を利かない。
しかし実際我々は、かつてないほど頻繁に、様々な場所の様々な人たちとやり取りをしている。それを可能にする手段を手に入れたからだ。

我々は、もはや企業や組織や政府の力を借りなくても自らを組織化できる。
そのためのツールを手に入れたのだ。我々は、ひとつの政治的志向や才能やビジネスや思想のもとに集まり、結束できる。
知識や行動を共有できる。一瞬のうちに交流を図り、団結できる。
この新しい秩序からは新しい価値観や考え方が生まれ、それは我々の社会を変えつつある。
インターネットを介した結びつきを使って、国や企業や人種の境界線を飛び越えられるようになった我々は社会を再編成しているのだ。
これは、グーグルやフェイスブックやクレイグリストがもたらした、新しい世界の秩序である。

かつては、出版社から原稿料を支払ってもらわない限り、文筆で生計を立てることは出来なかった。
印刷機を稼働させる経済力を持つ出版社こそが、読者を抱えていたからだ。しかし、今では多くの人がブログを書くことでお金を稼いでいる。

インターネットを使って単独で仕事を始めた場合、どれくらいの経費を削減できるか(スーツ代や交通費やオフィスの家賃など)を考えてみよう。
すると、これまでの収益や成功といった言葉の定義が揺らいでくるはずだ。
今日、独立のためにかかる費用は圧倒的に低く抑えられるようになった。
多くの人が自分の仕事に辟易している今のような時代においては、これは心強い現実だ。
職場の煩わしい人間関係から解放され、当面の生活資金を稼ぐ手段があるなら、会社への忠誠心が下がるのも当然だ。

モノを持つことにこだわるのは前時代的だ。今では、誰もがモノを取り扱う事を敬遠する。費用ばかりかかって不便だからだ。
偉大なるコメディアンの故ジョージ・カーリンの言葉を借りるなら、「モノを持っていたら、しまう場所を探さなくちゃならない」のである。
モノを作るには、素材を買い、保管し、さらなるモノを使って梱包してから、ほかのモノと一緒に送らなくてはいけない。
当然、在庫を保持するためにも費用がかかるし、在庫が時代遅れにでもなろうものなら、役に立たないガラクタを抱え込む羽目になる。

グーグルは我々の社会も、生活も、人間関係も、世界観も変えていく。
人間関係から見てみよう。
おそらく、インターネットのおかげで人との縁が簡単には切れない今、グーグル世代の若者たちは、友情に対して進化した見解を抱いているだろう。
グーグルがあれば、彼らは繋がっていられるのだ。

こうした永続的な繋がりは、友情に対する我々の認識を高め、お互いに対する接し方も変えるはずだ。
もはや我々は、過去を捨てて逃げることはできない。我々の多くは、おびただしい数の糸でお互いに結ばれている。
そして、その糸の数は日々増えているのだ。

では、恥ずかしい過去もまた生き続けるのだろうか?
グーグルのおかげで情報がいつまでも残るようになった今、失敗や過ちや若気の至りなども生涯我々に付きまとうだろう。
しかし、そこで我々を守ってくれるのが、「恥ずかしいのはお互い様」の概念だ。

グーグルによってすべてがガラス張りになった今、他人に石を投げる資格のある者などいはしないのだ。
それでも、人生が公開されすぎることを危惧する人たちはいる。プライバシーはどうなるのだ?
「どんな行動も、消すことはできないし、世間の目からも逃れられない」。
そう語ったのは、インターネットの父といわれ、グーグルの重役であるピントン・サーフである。
「もはやプライバシーは存在しない。腹を据えるしかない」。彼の言う通りだ。
プライバシーは今や、最も使い古された言葉の一つになっている。
問題なのはプライバシーではない。情報のコントロールだ。
我々に必要なのは、自分の個人情報が誰に対して公開されるのか、どのように使用されるのかに関する主導権だ。それが我々の権利なのだ。
グーグル世代において、プライバシーに関する概念は、大きく様変わりしている。

今日の若者の多くは、新しい行動規範や政治的見解を、ゲームやソーシャルソフトウェアから学んでいるといわれる。

(2011~2014年頃、執筆)