ハーモニー
伊藤計劃
ハヤカワ文庫JA
-私たちは皆、世界に自分を人質として晒している。-
2050年以降の近未来、人々は医療合意共同体の「生府」により、恒常的体内監視システムWatchMeを埋め込んでいた。
分子レベルで血中のRNA転写エラーレベルや、免疫的一貫性の監視を行い、そこから外れる物があれば即座に排除する事により、病気はほぼ放逐されていた。
提供される医療システムに合意した調和者(ハーモニクス)によって、世界は見せかけの優しさや慈愛で満ち溢れている。
御冷ミァハはそんな世界を憎んで、霧慧トァンと零下堂キアンと一緒に自殺を試みるが、トァンとキアンの二人は生き残ってしまう。
世界は個人の信用に関わる様々な情報を公開する事がモラルとなっており、拡現(オーグ)により人々の個人情報を知る事が可能となっている。
プライベートという言葉はほぼ死語と化していた。
人々は互いに互いの事を知らせる事、自分自身の情報を知らせる事によって下手な事が出来なくなるようにしている。
社会評価点(SA)というシステムも存在している。
この社会は自分自身を自分以外の全員に人質として差し出す事で、安定と平和と慎み深さを保っていた。
21世紀後半に起こった大災禍(メイルストロム)により、世界中に核弾頭が落ちて放射能で人々が癌になり始め、病気の駆逐に乗り出したのがきっかけではあるが、トラウマが大きすぎて対策が過剰になってしまったのだ。
13年後、28歳になった霧慧トァンは生府の上級螺旋監察官になっており、ニジェール停戦監視団としてサハラ砂漠で任務を遂行していた。
その傍ら、酒や煙草などの嗜好品と抗病プログラムパッチを、ケル・タマシェクのトゥアール族と物々交換していた。
そして、DummyMeをインストールして、偽の体内情報をサーバに送信していた。
その事が、オスカー・シュタウフェンベルク首席監察官にバレてしまい、謹慎処分として日本に戻らされる。
その日本で、零下堂キアンと再会しレストランで食事中に事件が起きる。突然、キアンが喉にフォークを刺して自殺を図った。
その時、世界の至る所で6582人の人が同時に自殺を試みたのだ。
「うん、ごめんね、ミァハ」と最後に言い残して自殺したキアンは、何と自害直前に死んだはずのミァハと交信していた。
ミァハが今回の事件と関係していると睨んだトァンは、ミァハの母を訪ねたところ、過去にミァハの遺体を引き取ったのは自分の父の霧慧ヌァザだと言う。
そして、父と一緒にWatchMeの論文を書いた冴紀ケイタの研究室を訪れ、バクダットで脳の「欲求」と「意志」について研究を行っているガブリエル・エーディンの所を訪ねる事にする。
しかし、その途中でマスコミに犯人らしき者から、「宣言」が送られてくる。
誰かを殺さない限り、自分で自分の命を奪うように仕向けると。
その「宣言」を読んだキャスターはその後、ペンを右目に刺して自害してしまう。
そして、インターポールのヴァシロフという男と一緒にトァンは、バグダットへ向かう。
飛行機に乗ってる途中、イタリア人が一名、自殺する。自分は誰も殺せない、自害するしかないと。
世界は大災禍のような混沌に向かいつつある。
しかし、WatchMeはグローバルIDを兼ねていてオフにすると買い物も出来ないし、自分の家に入ることすら出来ない。
そして、トァンは父と再会し「ハーモニー・プログラム」について知る。
その後、父はヴァシロフに撃たれトァンはヴァシロフを撃つ。ヴァシロフはミァハのセクトだったのだ。
「権力が掌握してるのは、いまや生きることそのもの。そして生きることが引き起こすその展開全部。
死っていうのはその権力の限界で、そんな権力から逃れる事が出来る瞬間。
死は存在の最も秘密の点。最もプライベートな点。」とは、ミシェル・フーコーの言葉。
切られた期限その日まで犯人の宣言を待つ理性を持たずに、多くの人間の双曲線的なものの見方は、目前に迫った恐怖を過剰に評価して奇妙な行動を取らせる。
財布を使いこなせず貯金箱に走る脳もこの有様。
その後、トァンはミァハに会う為にチェチェンに向かう。
そして、シュタウフェンベルク首席監察官は、実は<次世代ヒト行動特性記述ワーキンググループ>の一員だと知る。
「あなたの肩に世界がかかっている」とも言われる。
また、チェチェンでウーヴェ生命監察官とコンタクトを取る。
そして、<対ロシア自由戦線>とコンタクトを図りたい旨を伝える。
トァンは個人的な知りたい欲求と幾分かの復讐によって動いている。自分の為に動いている事を認めろとウーヴァは言う。
これ以上はネタバレし過ぎるので書けない。
意識があるからこそ人間は迷い苦しむ。その意識が消滅した社会は、争いも自殺も無い平和な社会である。想像してみよう。
(2011~2014年頃、執筆)