都市と星
アーサー・C・クラーク
ハヤカワ文庫
かつてSFは、イギリス流の「遠い未来を舞台に人類の行く末を考察する思弁小説」と、アメリカ流の「時空の広がりを背景にした波瀾万丈の冒険活劇」と二手に分かれていて、クラークにはその二つを融合しようという野心があった。
そして、その人類の壮大な未来史とスペースオペラを統合したのがこの本作という事で、「幼年期の終わり」と並んでクラークの代表作とされている。
まず、何よりコンピュータ揺藍期の1956年に、この作品が刊行されているというのが驚愕である。
主要な舞台となる都市ダイアスパーの設定は、ヴァーチャルリアリティの可能性を示唆しており、つまりは現在のインターネット社会の行き着く先を暗示しているようでもある。
この作品は確かサイバーパンクの先駆けと言われた事もある位、先見性に秀でている。
この作品に出てくるダイアスパーでは、住民は1000年の寿命を持ち、主要な情報は中央コンピュータにあるメモリーバンクに保存される。
メモリーバンクには何千万人もの住民の肉体や精神の情報がストックされており、全市民の百分の一だけが実体化可能となっている。
住居や家具や街路や公園も情報としてストックされており、必要に応じて実体化され消滅も自由自在である。
イメージとして例えるなら、シムシティに近いかもしれない。
そして、ダイアスパーを現代の社会に例えた場合を思慮すると、セカンドライフやピグなどに近いのだろうけど、ある意味ITとネットワークで管理されているこの現実社会も、徐々にダイアスパーに近づいていると言えなくもない。
ダイアスパーは、一見ユートピアに見えるディストピアである。
住民は閉鎖されたダイアスパー以外を知らない為、今の暮らしが一番良いと信じているだけなのである。
この物語の主人公アルヴィンが、ダイアスパーを脱出した際に辿り着く村落集団リスは、ダイアスパーとは対照的に開かれた田園都市である。
リスの住人はなるべく機械に頼らない人間らしい生活を送っており、住民の寿命は約200年程度。
子供を産んで育てるという当たり前のライフサイクルに従っていて、高度な精神力を持って会話は主にテレパシーで行う。
ダイアスパーもリスもお互いの存在価値をずっと認めずに、両者とも閉ざされた生活を送っている。
リスの住民はある意味、仮想現実を拒否した人々でもあり、これも現代のインターネット社会に当てはめて鑑みる事が可能である。
結婚して部屋に閉じ籠もることなく、健全な生活を営む人々がリスの住人である。
そして、ダイアスパーの住民が作った知性体ヴァナモンドである。
これは、「宇宙の真の姿を知る者」とされており、いわば太古から存在するとされる神の概念なのだが、これが科学の突き詰める最大目標なのである。
この超越思想的な存在について、思索を巡らしてみるのも面白い。
この作品は壮大なスケールの描写により、SFならではのセンスオブワンダーに満ち溢れており、自信を持ってお勧めできる作品である。
(2011~2014年頃、執筆)