二月の千穐楽の夜に大規模イベント自粛要請が出たのだったと記憶しています。
瀬戸際の二週間とかで、歌舞伎座・明治座・国立と三月前半の自粛を決めます。
しかし瀬戸際はもっと長かった。
というか、もう瀬戸際越してたんじゃないの、あの時。
観劇ということに関しては、もはや漂流中な気分な私です。
ぜーったい沈まず、岸に戻るぞ。
さて結果からいえば、三月以降の歌舞伎興行は行われていません。
五月から始まる予定だった團十郎襲名は延期になり、
七月の松竹座もいったんは演目発表がありましたが中止になりました。
そんななかで、三月の企画から四月は期間限定で動画配信がありました。
国立劇場は菊之助が知盛・権太・忠信を演じる「義経千本桜」三演目。

私は菊之助だとこの三役の中では忠信が一番好きです。
菊之助、なにをやってもそつなくこなせる人だなあと思います。
だから彼を観ていると不安が解消されていく感じがする。
観ててパーッと熱くなるとか、そういう感じではない。
権太としては美しすぎるなあ、もともとが寿司屋の坊ちゃんだとしても。
知盛、権太ともに最近の仁左衛門でも観ています。
仁左衛門も美しいのですが、「この役には美しすぎる」と思うことはないのです。
何が違うんだろうなあ、私の贔屓目か?
今回の義経千本桜では梅枝のお柳・内侍の局がよかったです。
明治座は出演者の座談会。
自分が出るはずだった芝居についての話や、使うはずだった小道具の紹介など。
「一本刀土俵入り」で勘九郎と七之助が使うはずだった小道具が、
七世芝翫(彼らのおじいさま)や六代目菊五郎(彼らのひいおじいさま)縁のモノで、
演じる役はどっちも貧しく薄幸な人なのですが、小道具超豪華ってところがおもしろかったです。
「桜姫東文章」は仁左衛門・玉三郎がやってきて実演付きのお稽古をしてもらったそうで、
それはなにより羨ましいし、ぜひぜひその伝授の成果は見せてもらわねば。
歌舞伎座は三月公演全演目を無観客収録したものを公開。
上演中止期間は少しずつ延長されていたので、やれるかもしれない、で準備されてたんですよね。
それがいよいよ無理らしいということになって、せめて一回きりでも上演して、
動画配信という形で観てもらおうということになったわけです。
観に行けないので、せめて動画で観られるのは嬉しいことでしたが、
この舞台にかけざるを得なくなった人たちの気持ちを思うと…
自分が楽しみにしてても具合が悪くて観に行けなくなっちゃったってこととは違うので。
それで最初は昼の部、夜の部と日を決めて、お弁当持ってみようかなと思ったのですが、
やはり家のPC(うちはテレビとつなぐことができません(TT))で観るのは目が疲れます。
なので一演目ずつまずは流して、その中で「これ!」というのを繰り返し観てました。
やはり「新薄雪物語」の後半、吉右衛門@幸崎と仁左衛門@園部が花道のつけ際でひそひそ話をするあたりからが眼を離せません。
客席に人がいないのは他の演目では寂しい違和感を感じましたが、
この場面や、あとの幸崎が園部邸を訪ねてくる場面などは、
シーンとした、彼らだけの場内が場面の状況と重なって、いっそう物語に引き込まれる気がしました。
この「合腹」は吉×仁左のセリフのやり取りが耳に心地よく、
スマホで音だけ聴きながら他のことをしていたりもしました。
また私が部屋で観ている音を耳にした夫も「なんかすごいねえ」と言っていたので、
ふだん目に入るものに心奪われていると思いがちですが、耳に入ってるもののよさも重要だと思います。
昔はラジオでも歌舞伎を楽しんだと聞きますが、さもありなんと思ったのでした。
そして、「辛いことが多く笑うことを忘れていた。ここで一つ笑おうではないか」という、
謀反の疑いをかけられ悪人に嵌められた子どもたちを、
命がけで逃がす親たちの意地の笑い。
そうよ、笑わなくっちゃね。
令和二年の春、疫病禍中でありますが笑わなくっちゃ。
心励まされる「合腹」でした。
そして関西は南座の「スーパー歌舞伎Ⅱ 新版オグリ」。
こちらは猿之助オグリ完全版と隼人オグリダイジェスト版。
猿之助版もサクッと流し見ましたが、やっぱり私はこれは隼人オグリが好き。
好きなもんは好きとしかいいようがない。
新悟@照手姫とのヴィジュアルのつり合いが大きいのかなあ。
演舞場で観たときも感動したのですが、これもまた今観ると、
「よう生き抜いた」というオグリと照手の再開のセリフが身に染みますね。
演舞場との演出の変更はいろいろあって、寿猿さんの役回りは婆さんよりこちらの爺さんのほうがいいですね。
金坊のエピソードはなくなってたけど、閻魔様がこそっと出てくる繰り返しは、あの三河万歳があればいいかな。
オグリ、はーちゃんが苦悩を突き抜けて歓喜へ至る成長と再生の物語も好きですが、
浅野和之の閻魔様が地獄改革を目指してこの世に現れるというのも好きです。
そんなわけで4月はけっこうYouTube三昧。
5月は本を読んだり整理したり…の予定ですがどうなることか。
この大変化の時代を誰がどう戯作化するか、どう上演するか、どう受け入れられるか。
そんなことを夢想してるまに時が流れていくのかも。
「合腹」で子どもたちを逃がすときにの父親たちの絶唱。
とにかく安全無事に生き延びてくれという願い。
設定は様々あれど、人の願いはシンプルだなと思います。
「無事でいてくれ」「よう生き抜いた」これにつきます。