平成中村座 『渡海屋・大物浦』 | mayaのブログ

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ほとんど観た歌舞伎の話

中村座の昼の部を観に行ってきました。
今日は夜の部を観に行った時と比べて、隅田公園の桜がすっかり紅葉。
晴れて空気が冷たく、スカイツリーがくっきり見えます。

典侍の局の孝太郎は初役とのことでしたが、
この役はずばっとはまっていたと思います。
全体的に抑え目で、特に本来に戻ってからはひたすら帝に寄り添いつつ、
戦況を見守り、女官たちを励まし、きりりとしていますが、
帝に目をやる時だけは、とても優しいのです。

安徳帝役のお子さんが、また可愛く利発そうなお子さんで、
局の話を聴きながら、ちょこっと動かす表情が、
子どもながらに事態を理解し、きちんと振舞おうとしている様子で健気です。

そして仁左衛門の銀平。
一枚ガウンのように引っかけて現れる姿のカッコいいこと!
『双蝶々~』で相撲取りを演じた二人(橋之助、勘太郎)をあっさり門の外に押し出し。
相撲取りコンビは楽しく魚尽くしをしてサヨリなら。
しかしこのやり取りも実ハ…と思って観ていると、
平家チームの復讐の念の強さの凄味を感じます。

魚尽くしや天気の話よりもっと銀平を観ていたいのですが、
銀平はさらにカッコよくなるためにお着替えなので仕方がない。
その間に、義経(七之助)一行は船出の祝い膳を出してもらい、
渡海屋を出立します。
義経、頼朝に追われて元気がないのか、うなだれぎみ。

さて上手の小部屋がからりと開くと、
白と銀を身に纏った新中納言知盛の出陣姿。
壇ノ浦で死んだと思わせ、ここで幽霊として義経一行を討つつもり。
控える兵士たちも幽霊姿。
安徳帝を前にひとさし舞って出陣します。

ここで舞台が変わって、海を眺められる部屋に。
船の灯が消えたらお覚悟召されよと言われていた女官たち。
帝に正装をさせて様子を見ますが注進のものの報告内容は芳しからず、
女官たちの前で丹蔵(勘太郎)は敵を道連れに海へ沈む。
とうとう沖の船の灯も消えて、典侍の局も覚悟を決めます。
帝であっても子どもは子ども。
一人で行くのはイヤだなと言うのを、
なんでひとりで行かせましょうぞという局の言葉に、
それなら海の底の都へ行こうとすぐに一首読んでみせ、
やっぱりやんごとなきお子様は違うものだわと感じ入ります。
局以外の女官たちは一足お先にドボン、ドボン。
さあ、私たちも…と局が八大竜王に呼びかけるところへ義経一行。
二人は救われてしまうのでした。

また場が変わって、知盛が先程の真っ白な衣装を血みどろに、
髪はザンバラ、顔には血糊、身体に何本も矢を立てて戻ってきます。
襲いかかる義経の兵たちを相手に薙刀をくるくる回す立ち回りがまたカッコいい。
左鎖骨あたりに刺さった矢を抜いて、そこについた己の血肉をすする姿は壮絶。
(刺さった矢は抜かずに折るんじゃないのか?大出血しないか?)
先程のクールな姿とは別人のような手負いのケモノ状態。
平家物語の壇ノ浦の知盛は、もっと淡泊で潔かった気がするけど、
そんなことはどうでもいいのです。
この知盛は悔しいのだ。
安徳帝と平家の世の再興を願って虎視眈々と生きてきたのだ。
それがついに水の泡。
悔しくて、哀しくて、死にきれないで咆哮する知盛なのだ。
その知盛を鎮めることができるのは安徳帝だった。

義経の家来に抱かれた安徳帝に懇々と諭されて、
知盛はようやく得心する。
義経が安徳帝を守護すると約束したことに安堵し感謝する。
鬼のようになっていた知盛から、憑き物が落ちる。
その様子をじっと黙って窺う義経。
瞬きが多いのは、涙をこらえているからかしら。

私、この辺からもう耐えられません。
安徳帝を義経に託し、自らは今度こそ海底を目指す。
皆、黙って知盛の行く手を見守る。
行く手は岩の上、碇の綱を身体に巻き、碇を背後に投げ捨てる。
ここ、知盛は息も荒くあえぎあえぎ上って行くのですが、
中村座は左右からの鳴物の音が大きくて、それが聞えないのが残念。
そして覚悟を決めて死へ向かう知盛が碇を揚げたところから、
どわーっと拍手が起こって、大拍手の中で飛び込んだのも残念。

もちろん見せ所です。
芝居が型の連続だとすれば、役者が大きな型を決めるところとして、
応援の拍手ってことなのかもしれない。
フィギュアの選手の最後の高速スピンに拍手、みたいなね。

でも人が死のうとしているのね。
知盛と、知盛の仲間たちが死んで、ひとつの時代が終わる。
そしてこの場は勝者でも義経を待つ運命も過酷です。
ハンカチ口に押し当てて震えてしまう私には、
ここの知盛への大拍手は「ボーゼン」ものでした。
幕が引かれてからでいいんじゃないのかなあ?

仁左衛門の知盛は情が濃く、人間臭く、吉右衛門の知盛のようなお行儀よさをかなぐり捨てていました。
孝太郎の典侍の局はひたすら端正に、不要に慌てず騒がず帝に付き添い続けました。
帝に目をやる時だけホワッと優しい乳母の顔でした。
そして困ったような悲しげな顔をする安徳帝。
一家として過ごしてきた三人の悲しい別れでもある知盛の死。
これが泣かずにいらりょうか。

幕が下りてから、ゆっくりコートを着て、ゆっくり出ました。
目が痛い。
知盛なみに私の化粧も崩れたかも。
そこまで怖いことにはならなかったけど、
外で出会った知人に「まだウルウルしてますね」と言われました。

それくらい泣ける松嶋屋の『渡海屋・大物浦』でした。
これ、もっと大きい劇場で観てみたいです。

松席は思ったより楽でした。
座椅子がしっかり固定されてて、安心して寄り掛かれたし、
周りに荷物も置けたし。
値段が同じだから竹より松だな、と思いました。