「水道水を飲まないで」と南魚沼市が市民に呼び掛けるという緊急事態について、市の最終報告書を読んでも、何も理解ができない市議会議員、黒岩揺光です。
市が「水道水を飲まないで」と呼びかけるというのは異常事態です。なぜ、100%安全と市が豪語できない水が一般家庭に流れるという事態が起きたのでしょう?
最終報告書には、「なぜ、魚が死んだのか?」についてのみ説明があり、「なぜ、市が安全と確証できない水が一般家庭に供給されたのか?」という部分については、全く説明がありませんでした。この部分が解明されない限り、またこういうことが起こってしまう可能性があります。行政のチェック機関である議会の一員として、しっかり調査をすべきと進言してきましたが、いまだに全員協議会も開かれなければ、産業建設委員会で調査もありません。
というわけで、8月3日、最高気温34度の猛暑日ですが、自転車に乗って、畔地地区にある水道課にお邪魔することになりました。
いつもの様に氷が入ったストッキングを首に巻き付けて、10キロの登り道をゆっくり走っていきます。氷はすぐに解けるので、1度、スーパーで氷を補給します。
午前10時半、畔地浄水場に着きました。
風光明媚な山間部にそびえたつ大きな建物の中に市の上下水道部があります。市の職員約30人が勤務しています。他にも市から委託を受けている技術者たちも働いています。
最寄りのコンビニまで6キロ。周辺に飲食店や商店はほとんどありません。市役所本庁舎、大和支所、塩沢支所はすべて駅や商店街の近くにあります。ごみ処理施設の敷地内にある廃棄物対策課の事務所も半径2キロ以内に多くの飲食店や商店があります。この水道課の建物だけが辺境地にあります。私が水道課の職員だったら、少しばかりの孤立感を抱くかもしれません。
周辺住民との接点はあまりないようで、畔地地区の人たちに聞いても、「用がないから入ったことない」とか「え?あそこに市の職員が働いているの?」と言った感じです。
正面玄関を入ると、まず「立入禁止」という大きな文字があります。
水の安全を確保するためですから、立入禁止にするのは当然といえば当然です。
駐車場内には自転車用の駐輪場もあり、私はそこに自転車を止めました。駐車場には3ナンバーの車が多く見られます。少し気になったのは、駐輪場横にある小屋でした。↓こんな感じで廃棄物に見える物が山積しています。
一応、ここも市役所なわけですし、色々な方が通るわけですから、こういうものはもう少し目のつかないところに置けませんかね?六日町駅前の本庁舎前の玄関近くにこんなのありませんよね?建物内は立入禁止にするのは仕方ありませんが、玄関前の環境くらいはもう少し、一般市民に誇れるものにできないでしょうか。
玄関に入ると、内線電話があり、内藤潔・上下水道部長の番号を押すと、「上がってきてください」とのことで、スリッパに履き替えて、上がらせてもらいました。写真に写っているピンクのボトルは私のです。
8月2日に電話をして、内藤部長はすぐにご対応くださいました。8月1日号の市報に林市長からこの件についての報告書があったと思いますが、そこにも内藤部長の連絡先が記載されております。どうかお気軽にお問い合わせください。 025-774-3141
2階にある水道課に入り、皆さんに挨拶をして、内藤部長に、「まずは水槽を見せてほしい」、とお願いします。
「水槽」というのは、↓のことです。こちらをクリックし、ページ4を見てください。
水の水質を調査するために飼育されているウグイがいる水槽です。
このウグイが9匹突然死んだために、浄水場を一時停止しなければなりませんでした。
内藤部長は「いいですよ」と言い、水道課の部屋を一緒に出ました。
私は水槽がどの部屋にあるのか知りませんでした。
内藤部長は階段で1階に降り、玄関からすぐ近くのドアをあけました。「関係者以外立入禁止」と赤く書かれていますが、施錠はされていません。
写真撮影の許可がもらえなかったのですが、そこは学校の理科室の様な場所でした。
いくつもテーブルが置かれ、その内の一つのテーブルの上に、二つの水槽がありました。ドアから一番近いテーブルです。写真の様に、二つの水槽の上は緑色の網がかぶせられていますが、密閉はされていません。
部屋の奥には別室があり、そこは浄水場の水を検査する部屋になっていました。浄水場には「着水井」「混和水」「沈殿水」「浄水」と、浄水する過程の水を4段階に分け、それぞれの段階の水をこの部屋へ引っ張ってきて、水質管理をこの部屋からしているそうです。その一環でウグイの水槽も設けられ、「着水井」という一番最初の段階の水の中を魚に泳いでもらい、水質を調べているのです。
今回の緊急事態で、多くの市民が「誰かが毒を入れて魚を殺したのでは?」と推理小説の様な話をしていました。「一体、魚の水槽はどうやって管理されていたのか?誰かが何かを投げ入れられる環境だったのか?それとも厳重に管理がされていたのか?」と聞いてくる市民もいました。
なので、今回の訪問の目的の一つは、水槽の管理状態を確かめることでした。
結論から言うと、かなり甘い管理体制です。まずドアが施錠されていません。しかも玄関から一番近くのドアです。玄関に警備員はおりません。「立入禁止」とありますが、私が入れたように、実際は立入禁止となっていません。ヤクルトの販売の方も入りますし、玄関には空の弁当箱がいくつかトレー上に置かれていました。つまり、仕出弁当屋さんは自由に出入りをし、空の弁当箱を持っていくのではないでしょうか?
なので、誰かが侵入して水槽に何かを入れようと思えば、いつでも入れられる環境であるということです。夜は施錠されるそうですが、昼間はスカスカ状態です。
あの様な緊急事態が起きたにも関わらず、管理体制が全く変わっていないようで、驚きました。
せめて、水槽に蓋くらいして、何か変なものが落ちて水槽に入らないようにしても良さそうです。
さらにいうと、この「理科室」と表現した部屋ですが、とにかく整理されてないんです。↑の写真でも、少しわかるかもしれませんが、色々な物が置かれています。テーブルの上に、本やペンチなどの工具が無造作に散らかっているのです。駐車場の小屋の写真を見せましたが、あそこまでとはいいませんが、あれを連想させるような感じで整理されていません。棚の上から何か落ちて、水槽に入ったりしないか心配になるくらい、水槽の管理は厳重とは程遠いものでした。
水槽は二つあり、それぞれ10匹ほどのウグイが泳いでいました。
水道法施行規則というものがあり、第十七条には「水道事業者が講じなければならない衛生上必要な措置」が明記されています。
一 取水場、貯水池、導水きよ、浄水場、配水池及びポンプせいは、常に清潔にし、水の汚染の防止を充分にすること。
二 前号の施設には、かぎを掛け、さくを設ける等みだりに人畜が施設に立ち入つて水が汚染されるのを防止するのに必要な措置を講ずること。
「清潔」と「かぎをかけ」としっかり明記されています。申し訳ありませんが、南魚沼市の水道課は清潔感はなく、鍵もかかっておらず、水が汚染されるのを防止しようとしているようには思えませんでした。
現場を見た後、再び、水道課に戻り、内藤部長に話を聞きました。
市が出した最終報告書を改めて読んでください。今回の件、市は死因について、「窒素ガス病による窒息死」と断定した経緯です。
これを読むだけでも、私には多くの疑問点が沸いてきました。
疑問1
●「6月14日、ウグイの購入先の養魚場から「ガス病」を指摘される」
と報告書にありますが、これが死因特定に至る最初のヒントだったようですが、養魚場の方が指摘できるくらいのことなら、市上下水道部は全く予想できなかったのでしょうか?
答え: できませんでした。ウグイのことについては知識がありませんでした。(内藤部長)
疑問2
● 確認の方法は、ウグイの飼育水槽を2槽直列に配置して、取水した原水をそのまま第 1 水槽に流入させる。そして、少し時間が経った第1水槽の 水を第2水槽に流入させて、ウグイを観察することを教示される。
この確認方法も養魚場の方から教わったらしいのですが、ウグイを30年飼育してきたのに、市上下水道部は知らなかったのでしょうか?
答え: 知りませんでした。(内藤部長)
疑問3
● 6月16日、第 1 水槽内に流入する原水のガス飽和度を新潟県内水面水産試験場が測定したところ、溶存窒素ガス飽和度が 114~115%で、「窒素ガス病」を発症し得る数値であった。
この検査は、6月5日にウグイが死んだ時、水槽の水でなぜしなかったのか?これがその時、できていれば、すぐにガス病を疑うことができたのではないでしょうか?
答え: これも、そもそも市がガス病ということを予想できなかったので、飲み水として安全かどうかの検査しかせず、ガスの飽和度は検査しませんでした。(内藤部長)
疑問4
2. 溶存窒素ガス濃度を上昇させる原因の究明 ① 施設点検記録の調査から、ウグイの水槽に原水を送るポンプ手前の管が 閉塞して、ポンプに流入する水の圧力が低下していることが判った。 ② 管が閉塞しても水槽への送水は続いていたため、ポンプの加圧によって、 空気中の窒素が水中に過剰な溶解をした疑いをもつ。 ③ 管の閉塞を修理したところ、ポンプに近い止水弁の継手が緩んでいるこ とが判った。その緩んだ継手から入った空気が、ポンプにより水と一緒に 加圧されることによって、窒素ガス濃度を上昇させ、「窒素ガス病」を発 症する環境に陥ったものと推察できた。
↑の文章は、とても読みにくいのですが、そもそも、台風の影響で管が閉塞したことと魚が死んだことは、何か関係あるの?
答え: 何の関係もありません。(内藤部長)
つまり、魚が死んだ原因は、「止水弁の継手が緩み」であり、それにより空気が入り、窒素ガス濃度が上昇したことです。なので、報告書には、台風2号で草木が流れこみ、管が閉塞したことが記載されていますが、この記載は本来なら不要です。
問題は、「なぜ継手が緩んだか?」ということですが、内藤部長に聞いても、「振動とか」ということでわからないそうです。振動が原因で、継手が緩み、それで魚がすべて死んでしまうようなら、これまで30年間、一度も起こらなかったことが不思議なくらいです。台風2号を記載することで、まるで今回の件が特別なことのように読者に思わせてしまってないか心配です。台風2号と魚が死んだことは、関係ありません。関係があるとすれば、台風2号で管が閉塞し、そのおかげで、「継手の緩み」を発見できたということなのかもしれません。
疑問5
報告書によると、6月20日に死因を特定するための試験を実施し、新潟県内水面水産試験場の職員が協力して「窒素ガス病」であると結論づけています。一方で、市は、魚の死体の検査をしてくれるところを色々探したのですが、なかなか見つからず、6月9日にようやく、群馬県の民間機関が応じてくれることになったとのことです。この民間機関「食環境衛生研究所」ですが、これまでこういう魚の検査はしたことがないだろうとのことです。6月20日に水産試験場が協力してくれるのなら、なぜ、水産試験場が最初から検査に協力してくれなかったのでしょうか?
答え: これは報告書に記載されていないのですが、市は6月6日に死んだウグイ1匹を同じ水産試験場に持って行きました。この時は死体の中に毒があるかないかを検査しただけだったので、口頭で「死因は特定できず」と言われたとのことです。そのため、水産試験場では特定できなかっため、他の試験期間を探したとのことです。(内藤部長)
疑問6
水質検査のために魚を飼育しているわけだから、もし魚に何かあった場合、すぐに検査をしてくれる機関を事前に用意しておくべきではないのでしょうか?報告書には「6月20日にへい死したウグイも、翌日には、エラの 組織が壊れ気泡を判別することが難しい状態にまで、劣化していた」とありますが、だったら、今後は魚が死んだらすぐに検査をしてくれるよう、合意文書か何かを締結すべきでしょう。でなければ、魚を飼育する意味がないのではないでしょうか?
答え: 今後も県内水面水産試験場にお願いすることになる。(内藤部長)
疑問7
水質検査のために飼育していたウグイが窒素ガスですべて死ぬという事例は他でもあったのか?
答え: 公益社団法人「日本水道協会」に連絡してみましたが、「前例はほぼない」とのことです。魚を使って水質を調査する「バイオアッセイ」という手法は多くの水道事業者が採用しているとのことです。しかし、魚が突然すべて死ぬ事例は多々あるが、「窒素ガス」が原因で死ぬことは、あまり例がないそうです。畔地浄水場の様に、河川から来た水で死ぬ事例は、資料を見ても「1ケースも見当たらない」と言います。つまり、かなり珍しいケースであり、論文を発表してもいいものなのかもしれません。「継手が緩む」だけで窒素ガスが含まれて死ぬわけですから、他の水道事業で同様のことが起こらないというのが不思議でなりませんね。
ウグイの死因についての質問は以上です。
さあ、ここからが本番です。こちらをクリックして、時系列をご確認ください。
6月6日午後5時に「水質検査結果 異常なし」という結果が出る5時間半前の午前11時35分に「取水再開」とあります。つまり、市は、100%の安全性が確保できる前に、浄水場の水を一般家庭に流してしまったわけです。どんな素晴らしいテクノロジーを駆使して、人口5万人の市民全員に「水は飲まないで。生活用水としてお使いください」と言ったとしても、絶対に誰かが蛇口の水を飲んでしまうことは想像できるはずです。市は「断水になる状況を避けたかった」と言いますが、100%安全が保障できない水を市民が飲んでしまうことを考えれば、一部地域で数時間断水になる方がいいのではないでしょうか?この判断が正しかったのかどうか、しっかり検証しなくてはいけません。
私は内藤部長に尋ねました。
私: 安全が保障できない水を午前11時35分に流すという判断は正しかったと思いますか?
内藤部長: 私は100%安全だと思っています。
私: だったら、「飲み水として使ってください」と言えたのではないですか?
内藤部長: 100%安全なのですが、その根拠がなかったということです。
私: 午前11時35分に取水再開した時点で、誰かが飲んでしまうであろうことは想像できたと思います。
内藤部長: 本来ならもっと早く、午前11時くらいには第二報を入れて、飲み水として使わないことを周知する予定でした。
私: それができていたとして、人口5万人いる市民全員にそれを伝えることができたと思いますか?
内藤部長: 断水になれば、井戸が空になるということですから、復旧するまで数時間かかります。
私: 11時35分に取水を再開していない場合、いつくらいに断水になると想定していたのですか?
内藤部長: 東地区で午後1時とか2時には断水になることが予想されました。
私: 結果として午後5時に安全宣言ができたわけですから、長くても断水は数時間から半日とかで済んだということになります。100%安全を保障できない水を誰かが飲むリスクと、一部地域で半日断水になるリスク、どちらが大きいでしょうか。
内藤部長: トイレのことを考えると、断水は避けたかったです。
私: トイレといっても、世帯の方の何人かが数時間以内に大便を繰り返したら、大変かもしれないけど、1日大便しない人もいますしね。
内藤部長:風呂やシャワーもあります。
私: 半日、風呂やシャワー入れないくても大丈夫じゃないですかね。私は、この時の判断を批判するつもりで聞いているのではなくて、もう1度、同じことになった場合、また同じ判断をされるのかどうかを知りたいのです。6月6日は緊急事態でドタバタしていて、最良の判断をするのは難しかったと思います。でも次は違う判断になってもいいと思います。次回、またこういうことが起き、100%の安全が保障できない水を市民が飲むリスクと、1部地域で断水が起きるリスク、どちらを取るという判断に迫られたとき、また断水回避を優先し、一般世帯に安全が保障されていない水を流しますか?
内藤部長: 同じ判断をすると思います。
私は内藤部長の言っていることがちょっと信じられませんでしたが、「違う判断をします」と言えば、林茂男市長は、また別の最終報告書を出さなければいけなくなりますから、こう言うしかなかったのでしょう。
市の最終報告書を読めばわかりますが、「死因がわかったので、これで調査を終わります」という感じですよね。緊急事態において、市の情報伝達網はしっかり機能したのか。次への反省点はないのか。
ウグイが死んだのが6月5日午後5時半で、内藤部長が知ったのが午後8時、林市長が知ったのが午後8時ということについても、特に反省点はなく、今後も同じ情報伝達体制で臨むそうです。内藤部長にすぐに連絡がいかなかったことについては、上村栄一・水道課長が内藤部長の携帯電話と家の固定電話に電話をしたのですが、どちらにも伝言メッセージを残さなかったそうです。内藤部長は、家の固定電話については留守電話に伝言メッセージを入れない人の電話は取らないそうです。5万人が飲む水の管理を任されている内藤部長なのですから、できたら、24時間365日、電話を取れる体制になっていてほしいですね。
本来なら私たち議会が、「次回からは断水回避より、市民が安全でない水を飲むかもしれないリスクの方をより重視し、水質検査の結果が出てから一般家庭への水の供給をしてください」と行政に進言しなければいけないのです。
しかし、議会はそれをせず、7月は全員が県外へ視察へ行ってきました。私も行きました。
内藤部長との話し合いを終え、お礼を言ってから、私は自転車で三国川ダムへ向かいました。暑い!けど美しい。
スイスみたいじゃないですか?こんな美しい所が市内にあるなんて本当に素晴らしいですね。ちなみにこの格好で内藤部長と話をしたのですが、こんな格好なのに、快く受け入れてくださり、ありがとうございました。