ある仕事で思った通りにならず、「ああマーケティングが甘かったなあ」とぼやいたりしながら、はたと「マーケティングって…」と思いを馳せる。

 僕とは違う人生を歩んだ同世代の人の中には海外の大学に留学してMBAを取得するような人たちがいた。いわゆる経営学修士である。僕が大学を目指すときに一番魅力的に響かなかったのが「商学」「経営学」だった。会社を経営するというイメージがどうしても掴めず、音楽やエンターテインメントを職業ににするほうが単純にカッコよく見えていたからでもある。
 でも仕事を始めて20代の半ばを過ぎた頃になると「海外に留学してMBAを取得、英語はペラペラ、外資系企業で世界を股にかけてバリバリ働く人」がカッコよく思えるようになった。
 なんてった女の子にモテそうである。それも僕の周りにいないようなこれまた高学歴で美人で...
みたいな僕など歯牙にもかけられないようなタイプにモテそうだ。
 そしてさらに年齢を重ねるとそういうタイプが年下に出現し始める。
 「お仕事は?」と尋ねると「マーケティングコンサルタントやってます」とサラリと20代のヤツに言われた時のショックというか敗北感というか…。
 自分たちが必死でやっている商売についてさらりと分析されて「御社事業の収益性は…」などと評論されるのが我慢ならない、いや、本当はコンサルタントときちんと向き合ったことはないですよ。
 でも「お前らに何がわかるんだあ!」ときっと叫びだしてしまうんじゃないかと想像していた。
 まあ、若きエリートの方々に対する完全なコンプレックスなんですが。
 
 で、仕事であまりに思い通りにならなかったので、そうっと若きマーケッターに、あまり自分が困っていると気づかれないように聞いてみた。そしたら「その場合のお客さんのメリットは何ですか?」とズバッと聞かれ、「お客さんのメリットとコストが見合ってないのではありませんか?」とこれまたすごく当たり前のことを指摘された。
 でも確かにいろいろ考えすぎて単純なお客さんのメリットとコストについて考えが及んでいないことにも気づく。
 そして自分の直感だけでは間違った方向に行くこともあり、それを客観的な分析でニュートラルに戻す必要性もあり、そのためには確かに外部の意見も必要であるとも気づかされる。
 才気溢れる若手マーケッターのいうことは非常に正しい。
 きっと単に僕がその才能や、マーケティングを仕事に選んだ時代感覚に嫉妬しているだけなのだ。
 かっこいいな、と思っちゃってるから悔しいだけなのだ。
 まあ、そんなことを言っている年齢でもないので、これからは素直に年下のマーケッターたちの言葉を聞こう、と決意もあらたにするが…出来るのか?俺。
 3年前から走っている。きっかけはハーフマラソンに誘われたことだった。
 出場までの約2ヶ月、断酒して走り込み何とか完走することができた。
 走った後のご飯がことの外美味しく感じ、(ビールも久しぶりに飲んだのだがそれほど美味しいと感じなかった)とても爽やかな気持ちになった。それが忘れられず走るようになった。
 ふと周りを見渡すと走っている友人が多いことにも驚く。
 いわゆるマラソンアプリで走ったデータを共有している友人がいるが、みな月間100km以上走っていることにさらに驚く。先月は150km以上走った友人がいてさらさらに驚いた。
 最初の一年は体重も減り、人間ドックのデータも改善し、食べたいものを食べ、飲みたいものを飲み、いいことずくめ。しかし二年目の終わりに足を痛めた。フルマラソン出場後、痛みが引かない。
 それから約半年間、治ったかなと思って走るとまた痛み、さすがにアスリート専門の医者に行き治療をした。電気治療と湿布。治療法は地味だったが1ヶ月ほどで効果が出てなんとか走れるようになった。
 約半年のブランクで一度落ちた体力はなかなか戻らない。年齢のせいもあるかも知れないし、始めの時は全てが新鮮で、少しづつ走れる距離が伸びていくのも喜びに感じていたが、怪我のあとはなかなか元に戻らないもどかしさのほうが先に立ち、イラつくことも多い。
 申し込んでいたマラソン大会もこの怪我で2つ飛ばさざるを得ず、イライラはさらに募っていた。
 
 Jリーガーの奥大介さんが事故で亡くなった。好きな選手だった。僕は直接知らないが直接の知人も多い中川安奈さんがガンで亡くなった。かつて番組を一緒にやり今でも交流のあるつんく♂さんがガンの再手術をした。
 健康ってなんだろう?病気ってなんだろう?そんなことを考えてみる。
 間寛平さんはマラソンをしているがガンになった。ある年齢を越えると運動と病気、そして健康の関係が昔と違ってきていることに気づく。
 子供の頃は「運動をして健康になりましょう!」というスローガンの下、それを信じてスポーツに打ち込んでいた時期もある。もちろんそれは間違いではなかったはずだ。
 体力をつけて風邪をひかないようにする事には実際に効果があったと思う。
 でも、運動をしていたって、健康に気をつけていたって病気にはなる。
 病気と闘う体力はもちろん必要だけれど、運動していたからといって必ずしも病気にならないわけではない。加えて加齢とともに肉体が衰えていくことは継続的にジムで筋トレしている僕にはすごくリアルにわかる。
 だって若い頃はちょっと無理しても筋肉痛になるだけだったのが、今は怪我をするようになるんだから。
 むしろ健康であることは病気や運動とは関係無いのかもしれない。
 ただ自分が好きなことをやって生きること、なるべくストレスのない生活を送ることが結局「健康」なのではないか。
 当たり前かもしれないが、そんな結論に思い至った。今日一日自分の好きなように生きる、そんな日々を積み重ねていけたら幸せだなあ、と思う。
 突然病魔に襲われてもそれはそれで、と笑って死ねるためには今日という日をできる限り楽しく、自分が満足するように過ごす事。
 簡単じゃないけれど不可能じゃない、そんな心境だ。
 先週、久しぶりにある後輩と会った。
 彼は僕がいた会社を早々に退職、そのあとIT系に転職した後その会社も退職し自分で起業、今やいわゆるIT企業の社長だ。
 設立から10年近くが経ち、今や50人を超える従業員を抱えているという。
 彼と僕の年齢差が約10年。
 同じ会社にいた頃は正直それほど優秀とは思えない人物だった。
 ここのところ彼の会社に相談したいこともあり、食事をすることになったのだ。
 彼は社長として経営に携わり、今や年商10億以上の会社に成長させた自信に満ちあふれていた。
 そんな彼と話していて印象だったのは彼が人事について触れたときだった。
 「節丸さん全ては人事なんですよ」
 彼の会社は彼が39歳と若いため従業員も彼より年下が多い。しかし人事部長は年上の52歳。それなりの経験値がある人材を採用し、安く無い報酬を払っているという。
 「前にいた会社はある時まで組織が上手く回ってなくて、派閥が生まれたり、効率も悪く無駄も多かったんですよ。でもある人が人事担当になってからは派閥が無くなり、売り上げも伸びるようになり、劇的に変わったんです。」
 この事に彼はひどく感じ入り、会社経営の要諦は人事にあり、とばかり自分が起業してからも人事にはかなりの労力を使い、情熱を注ぎ込むという。そして彼はあることに気づいた。
 彼の会社を受けにくる有名大学の学生とあまり有名じゃない大学の学生を比較すると、有名じゃない大学の学生のほうが優秀なことが多いという事だ。
 「たぶん優秀な集団で安穏としている人より、優秀じゃない集団でもそのトップにいる人のほうが仕事をでは成果をあげるんです。」
 鶏口となるも牛後となるなかれ。
 大きな集団の中で尻にいて使われるよりも、小さな集団であっても長となるほうがよい。そんなことわざを思い出すエピソードではないだろうか。
 彼曰く、優秀な人材は任せておけば指示をしなくても勝手に考えて必ず成果を上げてくれる。これが経営として最も効率がいい。だから人事が大切だと彼は言うのだ。
 僕自身は会社勤めのサラリーマン。現場仕事が面白くて、当たり前だ人事部に積極的に行きたいとは思わないタイプ。
 経営者であるその後輩と僕にはいつのまにか大きい差が出来てしまったようだ。その考え方に彼の器の大きさを感じ、思わず我が身を振り返った。
 人材配置で最大の効率を上げる。そんなことを語る後輩の横顔を見ながら、まるで戦国武将のようだな、と思わされた。