
大佛次郎(おさらぎじろう)さんの本は、今では一般的ではないが
静かにひもとく読者も少なくないようだ。
大佛と書いて正しく読めない人もいるが。無理もない。
鎌倉の大仏のうら付近に若い時代に住んでいたので
この名前がついたそうである。
本題に入るが。
最近、大佛さんの現代小説「旅路」を読んでいて
あれっと、思うような主人公を取り巻く登場人物の会話が
気になって記事にしてみた。
この小説の時代背景は、終戦直後の世相で
戦争で心の傷を負った人たちが、繰り広げるストーリー。
時代観察の鋭い警句、文言などが織り込まれている。
~「女って、うっかりしている間に、早く年を取るものよ。」
田鶴子は、誰でも年上ならば言いそうなことを言った。
「あなた、いくつになって?」
「あたし、一年で一つ、年を取るって考え方をやめたの。」
のんきに、妙子は微笑した。~
誰でも、年を取るのを好きな人はいないはずであるが。
面白いトークである。
~「金は大切です。」
素六は、まだしっこく追いかけるようににして、こう言った。
「いろいろの間違いが、皆、これから起きるものですから。」
「やあ、やあ。」と瀬木氏は苦笑して、おとなしく答えた。~
「わかりましたよ。気をつけます。」と瀬木氏は言った。~
”地獄の沙汰も金次第”というような、俗っぽい表現でなく
小説の話は展開していく。これはこちらの所感だが
ロッキード事件、リクルート事件。
今、渦中の消費税をあげるあげないの政争もふと、頭をよぎる。
長くなったが、次は茶の話。

(京都・栂野の冬の高山寺参道)
お茶を飲んだり、たしなむのは今頃は普通の事だが
この栂野は茶の発祥地。
高山寺を開いた明恵上人が、茶は睡魔をはらうとして
禅の修行のよすがとして、境内付近に茶を植えたのが始まり。
ここから、宇治などに広まったそうである。
ここで小説の一節。
「昔は茶をたしなむものは自分で~作っていたのでしょう。
~家の茶を摘むなんて風流ですよ。~風流なんてものは不自由の中にしか
育たないものなんでしょうな~。うっかりやれば気障(きざ)なものに成りがちだ~」
続いて、戦後のアメリカの”缶詰め文化”を揶揄しているくだりがある。
かつて、日本もアメリカに習って缶詰めがよく食卓に
のぼつた時代がある。今はマクドナルドなどに、その伝統が引き継がれているようだ。
大佛次郎さんは鞍馬天狗の本でも有名だが
本当は「帰郷」、「宗方姉妹」などの名作があり
「天皇の世紀」、「パリ燃ゆ」などの優れたドキュメント作家としても
名を残した。