“ちょっと待ってください!”
プロローグ
カツカツとヒールの音を響かせながら、かっちりとしたパンツスーツを着こなす女性。
手には厚めのクリアファイルと何枚も付箋を張り付けてある書類があった。
女性は携帯電話を耳元に当て、苛々とした口調で話ている。
「ちょっと、もうその話は終わったでしょう?あなたも納得してたじゃない!」
電話の相手は男性のようだ。向こうも切羽詰った様子で彼女に自分の言い分を聞かせている。
「そんなことしてない、ですって?いい加減にしてくれない?
書類ももう、全て揃えたし、確かにあなたにも納得してもらったわ。
あとは書類を提出するだけなのよ!愛美や隆司君にも証人として名前を書いてもらってる。
お義父さんやお義母さんにだって了承は得てるのよ。
………………、何?一ヶ月?
はあ、もういいわ。そんなに言うなら待ってあげるけど、
私が納得するような答えを出してきなさいよ。
じゃあ、一か月後にまた」
プチッと電源ボタンを押して、電話を切る。
女性は眉間にくっきりと皺を寄せ、深いため息をついた。
(後一ヶ月、早く来ないかしら。)
切実にそう思った。
そのせいで先ほどの会話を思い出してしまった彼女は、
苛々を募らせながら荒々しく携帯電話をポケットの中に突っ込んだ。
(今日、愛美でもさそってどこか行こうかしら)
ストレス発散に。
久しぶりにカラオケ行きたいなあ、と彼女はさっきしまった携帯電話を取り出して、
電話帳を開いた。
(愛美、今日空いてるかな。)
ピピピ、と呼び出し音が耳に響く。
しばらく待つと、ピ、とそれが切れた。
「はい~、愛美ですけど~。」
「愛美、私。」
気の抜けたような声で電話に出た愛美。彼女の友人だ。
「私?誰よ、私って。オレオレ詐欺の女版?あ~、そっか。それならすみませんが、
私はお金は持ってませんので~。どうぞ他をあたってください~。じゃ、切りますね」
「ちょっと!だから私だってば、あなたの友人の朋子です!」
「うん。知ってる」
ああ、そうだ、コイツはこんな子だった。と彼女、基朋子は思った。
いつもこのペースに振り回されてしまう。
愛美の趣味は、人をからかうことだから。
「はあ、もういいわ。で、本題なんだけど今日、空いてる?」
「ん?今日~?ちょっと待ってね」
とりあえず本題を切り出してみた朋子。
電話越しにパラパラと紙を捲るような音がかすかに聞こえた。
大方、スケジュール帳を確認しているんだろう。
そして待つこと三十秒。
「オッケー、大丈夫だよ~。ついでに隆司君もさそう?」
「え、でも仕事忙しくないの?彼」
「大丈夫だって!アイツいっつも暇人だから!」
「そ、そう…じゃあさそってみようか。」
ちょっと酷くない?と思った朋子だがここはスルー。
こんなのに一々付き合っていたら昼休みが終わってしまう。
「ちなみにどこ行くの。」
「…どうしようか。私としては久しぶりにカラオケ行きたいんだけど」
「いーんじゃない?私も行きたいし!」
結局隆司を巻き込むこととなり、場所も朋子が希望したカラオケに決定した。
「じゃあ、八時に駅前で」
「おっけい!隆司君にも伝えとくよ~」
じゃあね、と愛美が通話を切る。
朋子はそれを確認してから、昼休みが終わりそうなことに気が付き、
慌てて廊下を走り出した。
・
この前書いた話とはまったく関係ありません。あしからず。
この小説は離婚ネタ。
ちなみに主人公は朋子さんではありません。
朋子さんと電話で話していた男性です。
一ヶ月以内に男性が変わって、離婚取り消しにするのか、
結局離婚するのか。
今のところはこの二択です。
書いてて楽しかった。
これは続きを絶対書きます。
次はその男性視点から始まりますよ。
では、また。
