※親世代過去編捏造です
うちの本を持ってくださってる方はできればそちらを先に読んだ方がいいかもです。
色々引用したり内容が繋がってる所があるので。つっても大したもんではありませぬ…
本のアトガキでやりたかった~と言ってたゲオレダ話。こんなんゲオルカじゃねぇよ…という感じですほんと
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―耳鳴りが
何年も前から鳴り止まなかったそれが、今、この瞬間にぷつりと途切れた。
同時に『何か』が途切れた。それは目の前のいのちか、それとも自分の人間としての感情か。
――――【Mebius】―――――
「もう、数時間の御身です」
「……ふ、やはり弱い女だ」
「……」
「全員下がらせろ」
主はそれだけ言って回廊を進んだ。
その声がほんの僅か震えているのを、従者は見逃すことができなかった。
家臣を誰一人その部屋に入らせたことはない。その場所へ、最後まで一人で向かおうとしている。
傲慢で、自己顕示欲に溢れ、冷淡で、残虐な主。だからこそ本物の王ではなく、彼に仕えてきた。
揺ぎ無い瞳は自信に満ち溢れ、崩れることを知らない。だからこそ故郷に背く事になろうと、全員が全員、彼の後を追ったのだ。
そしてこの船に乗った誰もが知っている。 ――彼が誰より弱い人間であること。
辞儀をしたまま主の後姿を見送り、顔を上げたころにはもう、その姿はなかった。
一介の臣下の自分には、彼の本当の感情など解るはずもない。
本当は愛していたのかもしれないし。本当に愛していなかったのかもしれない。
ただ。―ただ、彼の震えた声色からは、悲しみより怒りを、強い怒りを感じた。
―――――――――
暗い室内、広い部屋、簡素な家具、冷えた空気。
ここはこんなにも寒かっただろうか。誰にもこの場所を任せていないから、空調設備がおかしくなっているのかもしれない。
大きな展望用の窓が目に入った。あの女が、よくそこの椅子に腰掛けながら宇宙(そら)を見下ろしていた、窓。
飽きもせず宇宙を見ては涙を流していた。―それしかすることがなかったのだろう。知っていた。自分がそう仕向けたのだから。
流れた涙は床に弾け落ち、吸い込まれ、あの銀河へと還ったのだろうか。
部屋の端にある大きなベッドに近寄ると、乱れた髪をシーツに散らして、真っ白な肢体が横たわっていた。
虚ろな青の瞳で天井を仰ぎ、呼吸を繰り返すそれは、美しく、儚く、そして脆く醜い。
―”死にぞこないが”―、そんな言葉が喉を込み上げた。もう自分の口からは、誰かを傷つける台詞しか出ないようになっている。
「……レダ」
声をかけると、青い瞳が僅かに揺れた。
こちらは見ずに唇だけがゆっくりと、ちいさく開かれる。
「これで…満足、ですか…」
「……ああ」
ゲオルカがく、と喉を鳴らし僅かに口元を吊り上げると、それは微笑となった。
見ていて気持ちの良い微笑ではない。いやらしい、見下した笑みだ。
人の神経を逆撫でするはずのそれが、今はむしろ懐かしく、レダを安心させる。
それはその笑みが、いつもとほんの少し違っているからだろうか。
「私が逝っても…貴方はなにも変わりませんね」
声が掠れた。全身がだるくて、もう自分の意思で自由に動かせるのは唇のみだ。
何かを伝えることの出来る最後の器官で言葉を交わすのは、誰より憎んだ目の前の男。
人の生とはなんと滑稽なものだと、レダは穏やかに思う。
最後に本音を言って欲しいなどとは思っていない。この男の本音など、あるのかどうかも解らない。
だからこちらも―最後まで本音は言わないつもりだ。
「そうだな。お前が死んでも何も変わらん」
「…貴方にデュマを頼んで逝くのは…本当に心残りです」
「つれないことを言うな…儂なりに愛情を注いでいる」
「その方向が捻じ曲がっていることがお解りなのに…ですね」
「………」
「どうして、嘘をついたのですか…利用できると、お思いに?」
(共にギリシアを変えよう)
彼の言葉が本物かどうかは自分にとって、大した問題ではなかった。
ただ手を取る以外に選択肢がなかったのだ。他にあったたくさんの道は、全てこの青い瞳にかき消されてしまった。
嘘かもしれない、と思った。ギリシアを奪うことしか頭にないこの男が、嘘をつかない訳がないと。
―それでも、良かった。今、目の前にあるのは濁った青。それでも。
「――兄上のモノは全て奪う。それだけだ。その延長でお前に利用価値があるのなら、それはそれで好都合だったがな。…それにあながち嘘でもない。タイタスは外乱を望んでいた。―自分の、ギリシアの力を過信してな」
「そう…ですか」
安堵した。
彼が嘘をついていたこと
兄から自分を奪おうとしたこと
たとえそれが自分への想いからでなくとも
自分が利用価値がある女として連れてこられたのだとしても
それが”『彼』らしい”と思ったから。
(本当に…だめな女)
解っていながら騙され、解っていながら愛され、解っていながら傷つけた
(デュマ……)
どうしても心残りなのは、まだ幼すぎる我が子のこと。
何年も前に同じようにまだ幼すぎた娘を手放した。
その時の後悔を決して二度とは感じないように、あの子のちいさなてのひらを放さないと、誓ったのに。
弱すぎた。自分が出来るのは、我が子の幸せを祈ることだけ。―なんて、なんて身勝手な祈り。
そして自分は、生涯を賭けて欲した青い瞳に殺される。―なんて、なんて贅沢な願い。
せめて、自分の死の所為で、彼の矛先が息子に向かうことのないように――
誰よりも前を向き、何よりも光を湛えたあの青年を想って逝けることは、自分にとって幸なのか不幸なのか
幸せだったと言える生ではなかった。―でも、不幸だったと言って死ぬことはできない。
あまりにも悔しいのだ。彼には最後くらい、最大の嫌味を言ってやりたい。
「…ゲオルカ」
「なんだ」
「老けましたね」
「…お前もな」
「貴方は本当に…いつまで経ってもお兄ちゃん子だこと」
「…なんだと?」
「――…ゲオルカ…」
これできっと、名を呼ぶのは最後だ。
この何もない部屋から宇宙を見下ろすときより
我が子のぬくもりを腕に感じられないときより
哀しくも、辛くも、悲しくも、哀しくも―ない
ただ、最後まで胸が焦がれた。
「私は…しあわせ、でした…」
「―――、」
ゲオルカが目を瞠った。大きく目を見開き、唇を噛み締める。
肩がぶるぶると震えた。怒りのような感情が体中を侵食していく。
―怒り?悲しみでもなく、喜びでもなく、胸を焼く、掻きむしりたくなるような衝動。
最後まで、この女はこちらの意思に従順ではない。「しあわせだった」など―
一番聞きたくない台詞を。
こくりと息を飲み込み、押さえ込んだ怒りのまま、低く口を開いた。
「レダ。――死ぬのか」
「は…い」
「悔しくは…ないのか」
「貴方を…悔しがらせましたから、じゅう…ぶん」
「お前が死んだからと言って、儂は泣きも悲しみもせぬ」
「それでも…悔しい、でしょう…」
最後の力でふわりと微笑む。うまく笑えただろうか。
心からの微笑に見えただろうか。そうであれば自分の勝ちだ。
「―お前みたいな、女。死んでしまえばいい」
「……」
「強情で、口うるさくて、目障りで―」
「『女は従順なのが一番いい』…でしたっけ」
「―――、」
「それならわたし、『わたし』でよか…っ」
声が出なかった。ずっとぼやけていた視界が、一面真っ黒に染まってしまう。
彼への最後の復讐は、自分が死ぬことで成し遂げられただろうか。
誰より愛していたから、誰より憎んでいたから
―最後まで彼にとって『めざわりな存在』で居たかった―
「……レダ」
しん、とした室内に低い声が響く。
―耳鳴りが、途切れた。自分を纏っていた雑音のようなもの、それが、ぷつりと。
それが消えると、急速に世界は冷えていった。こんなにも"音"の存在しない世界があったのか。
「レダ」
縋りたい訳でもない。認めたくない訳でもない。
目の前の存在が、今ここにある白い体が、もういないことなど理解している。
せいせいした。どうでもよかった。くだらなかった。
―早くいなくなって欲しかった。目の前から消えて欲しかった。
利用できるならしてやろうと思ったのも本当だ
自分の女だったからでなく、『タイタスの女』だったから奪い返したかったのも本当だ
ギリシアに、王に背くことの自分の罪の重さを思い知らせてやりたかったのも
怖いもの知らずなお嬢さんを、悪の色で汚してやりたかったのも
全て本当だ
―だが
「…レダ…っ」
力を失った身体を強引に揺さぶった。
触れた手がひやりと冷たい。だらりと腕が落ちて、強張ったまま肌が白から青へと変わる。
死とは、いつからが死なのだろうか
声が出なくなったとき、意識がとぎれたとき、呼吸が止まったとき―?
身体が灰になりつくしたとき、土に埋められたとき、花をそえられたとき―?
それとも、自分が彼女の存在を忘れたとき、だろうか
(私は…しあわせ、でした…)
「ふざけた女だ…」
この期に及んで「しあわせだった」と言う
ゲオルカの喉に、じわじわと抑えきれない怒りが込み上げた。
ひどく苛つく。怒りで胸が焼けて気持ちが悪い。悲しみなどこれっぽっちも湧かない。ただ、狂いそうな怒り。
「ふざけおって…っ!」
素早く腰の剣を抜くと、寝台横の花瓶に振りかざした。甲高い音を立ててそれが割れる。
床と目の前の遺体に破片が散らばり、それを確認する前に今度は寝台の天幕を引き裂く。
布のちぎれる音が耳に不快で、それさえも怒りを増幅した。あまりに苛立って、嗚咽が込み上げそうだ。
「最後まで気に食わぬ奴だ…!」
荒い息で見下ろすと、その死に顔は驚くほど安らかだった。
―ほんとうに、ほんとうに未練も無く幸せを感じたまま逝ったと――?
嘘に決まっている。そんなことがある訳がない。
この女に対する愛など、とうの昔に崩れ去った。
愛していたかどうかも解らぬ、ぼやけた感情だ。
ただ、兄を憎む上での良い材料だった。
どうして連れてきたかも、今聞かれれば「奪ってやりたかったから」。
特別な存在ではなかった。
自分にとって特別なのは、自分と、兄と、ギリシアだけだ。
「…『女は従順なのが一番良い』か…」
確かに愛した少女だったはずの女性。その頬に触れる。
白い肌。しかし病のためその艶は見る影も無く、それに触れた自分の指も節くれたものだ。
言われて思い出した。それは昔、自分が言った言葉だった。あんな昔に言った言葉を。
それと同時に、確かにあった穏やかな日々が走馬灯のように蘇る。
自分にとっての全ては『今』だ。
過去など、想像の産物と相違ない。
だからいくら過去が輝かしかろうと、美しかろうと、自分にとっては何の意味もなかった。
過去に確かに愛し合ったことがあったとしても、『今』の自分にとってこの女は、『意味の無いもの』。
時を待たずして、この死さえも意味の無い過去になり果てる。その時、自分は――
「…ばかな女だ」
ちいさく呟いた。
誰にも聴こえないその囁きには、僅かに昔の優しさが含まれていること、ゲオルカ本人にも、誰にもわからない。
耳鳴りが途切れた。
凪いだ海のように静かで、なんの波も感じない。
ただ、なにかどうしようもできない憤りだけがじわじわと燻っている。
この怒りが消えたとき、目の前の死を過去として葬り去ったとき、
その時、自分は―――
「ばかな女だ……」
再び呟きながら、くるりと踵を返した。
剣を鞘に戻しながら扉へと向かい、振り向かずに部屋を後にする。
物音一つしなくなった部屋で、物を言わぬ女性の睫毛が涙で濡れていたことを知る者は
誰もいなかった
END
――――――――
…ここまで読んでくださり有難うございます。
捏造…はい。ほんと捏造なんですうちのゲオさまは(笑)
ちょっと途中で間が空いてしまったので前半と後半で言いたいことが食い違っているような…。汗
もういろいろこっぱずかしいんで説明はしませ…未熟でごめんなさい(凹)
次はユーリを書きたいな~…とか。(だからオリキャラ補完はやめろ…
ベフォとかセスとかも書きますよ。とっぱつてきに。
あーっとゲオさま本の補足(こんなとこで書いてもな…
外伝―Deep Blue―で、ゲオさまが外乱云々言っておりますがあれはもちろん嘘です…
で、えーとレダさまも嘘だと解ってはいます。その辺がごそっと抜けてしまって…(汗)
まぁ書かなくても訳がわからないほどではないですが、あれだとゲオさまが良い人じゃん…みたいな
基本的にうちのゲオさまは純粋だけど「いいひと」では決してないので(滝汗)
こずるいことは平気でやります。むしろそれが当たり前だと思ってます
三人で暮らそうだとかほざいてますがそんなことは欠片にも思ってません
つーかこれやっぱ書かないと駄目だったよね…うわーん時間足りなか…っ
ここ読んでくれるひともきっといるかどうかだし…まぁ、えーと懺悔てことで。