「すみだ川」、永井荷風の小説。
渡米、渡仏から帰国した
1908(明治41)年に発表されました。
舞台はそれより数年前、
隅田川界隈の町となっています。
江戸の面影さえ残っていそうな
隅田川と、その周辺の町の情景が、
描かれています。
今はすっかり変わってしまった、
隅田川界隈の風景。
しかし将来の姿を模索して悩み、
時には苦しむ青年の姿は普遍的です。
〈『すみだ川』 主な登場人物〉
長吉
18歳、母親のたっての希望で
中学校に通っており、
いずれは大学に進学し、
勤め人になることを望まれている。
学校の勉強と、苦手な運動の時間に
嫌気がさしている。
作中で、インフルエンザや
腸チフスにかかっており、
体が弱いようである。
幼馴染みのお糸が
芸者になってしまったことが、煩悶の種。
お糸
長吉より2つ年下の煎餅屋の娘。
幼い頃から仲良く、
同級生から相合傘に
名前を書かれるような仲。
明るくさっぱりしている。
世間の義理から、
葭町の芸者に出ることになった。
そのことを悲観している様子はなく、
馴染んでいる。
長吉の母、お豊
元は大きな質屋の娘だった。
店を継ぐべき兄は勘当され、
養子に入った夫とともに
商売をしていたが、
店が傾き夫に先立たれる不幸続き。
今は常磐津文字豊の名で弟子を取り、
細々と生計を立てている。
一人息子の長吉の出世だけが望み。
松風亭蘿月(らげつ)
お豊の兄、長吉の伯父。
若い頃、放蕩の果てに生家を勘当された。
現在は俳諧師として暮らしている。
一時は妹お豊の願いで、
学校をやめたいと言う長吉を諭す。
しかし、役者になり
お糸と近い世界にいたいという
長吉の本心を知り、
若い頃の自分を思い出し、
長吉を応援したいと願う。
…悩み多き長吉は荷風の若い頃の姿、
風流人の伯父蘿月は、
荷風のそうありたい姿を
映し出しているように感じました。