歌舞伎座五月大歌舞伎、
「八陣守護城(はちじんしゅごのほんじょう)」視聴。
主演は中村吉右衛門丈のはずでしたが、
病気療養中のため、代役にて中村歌六丈。
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〈物語あらすじ〉
北畠春雄の館を訪れた帰り、
琵琶湖に浮かぶ御座船で
くつろいだ様子の佐藤正清。
傍らには息子の許嫁、雛衣が控え、
正清の所望により、琴を奏で唄います。
正清の様子をうかがいに来た、
北畠家の家臣たち。
悠然とした正清の様子を見て、
「はて、面妖な。」と訝しがります。
なぜなら北畠の館で
正清に振る舞われた酒には、
毒が仕込んであったから。
全ては、正清を亡き者にしようとする
北畠春雄の陰謀。
毒が回りつつも、苦しむ様子を見せず、
葛籠に隠れた忍びの侍を切り捨てます。
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本作「八陣守護城」、
元は長い物語ですが、
現在はこの「湖水御座船の場」のみを
上演することがほとんど。
主人公の正清は、
その風情のみで全てを語る、
難役とも言えます。
吉右衛門丈の代役を、
立派に重厚に勤めあげた歌六丈。
雛衣の雀右衛門丈は、
自ら琴を演奏し、唄います。
女方としての日頃の修練が
垣間見えます。
忍びの侍を切り捨てた正清の刀を、
振り袖で拭う手強さも見せます。
雛衣の父、山左衛門は
北畠家の重臣。
正清に毒酒を勧める際に、
疑いをなくすため、
自分も共に毒酒を飲んだことから、
もうすでに命が危ういようです。
毒が回りよろけながら
船の舳先へ進み、
血を吐きながら、先を望む正清。
正清に付き従い、見守る雛衣。
ドラマチックな幕切れです。
(瀕死の正清ですが、原作では
自分の城に帰り、
主家存続の目処を立ててから
亡くなるそうです。
一方、雛衣は
敵方の娘であることから、
自害して果てるという悲劇。)
本作の佐藤正清とは、史実の加藤清正。
北畠春雄は、徳川家康。
豊臣秀吉の忠臣として名高い
加藤清正は、歌舞伎の作品に
多く取り上げられています
本作「八陣守護城」は上演がまれで、
戦後数回ほどしか出ていません。
特に十三世片岡仁左衛門から、
長男の片岡我當丈に引き継がれ、
昨年2月に十三世の二十七回追善として
上演されたのが、記憶に新しいです。
今回は、
「補綴、松貫四」とあるように、
中村吉右衛門丈自ら、脚本に手を入れて
準備をされてきたようです。
(松貫四は吉右衛門丈の別名。)
今回は病気療養のため休演でしたが、
健康を回復され、
上演される日が来ることを願います。