他の木に先がけて、
いち早く芽を吹き始めた柳の木。

水辺にかかる枝先。
〽吹けや川風 上がれよ簾
中の小唄の 顔見たや
賑やかな清元の音曲は、
「風狂川辺の芽柳
(かぜにくるうかわべのめやなぎ)」。
歌舞伎「水天宮利生深川
(すいてんぐうめぐみもふかがわ)」、
通称「筆屋幸兵衛」の中で、
余所事浄瑠璃として使われています。
「水天宮利生深川」あらすじ
明治維新により
没落士族となった船津幸兵衛は、
筆を売って細々と暮らしています。
妻には先立たれ、
幼い二人の娘と乳飲み子を抱え、
高利貸しの取り立てに
身ぐるみを剥がされてしまう始末。
もはやこれまでと一家心中を決意した幸兵衛は、
子供たちに切っ先を向けるも、
ついに辛さ余って発狂し、
乳飲み子を抱えたまま家を飛び出し、
身投げしてしまいます。
幸い、車夫の三五郎に助けられ、
命を取り留めた幸兵衛父子。
幸兵衛は正気を取り戻し、
これも水天宮様のご利益とみな喜び合うのでした。
明治初期の世相を題材とした「散切物」で、
激変する時代に翻弄された士族の悲劇を
痛切に描いた河竹黙阿弥の代表作。
〈歌舞伎公式総合サイト「歌舞伎美人」より〉
不幸な自分の身の上に比べ、
隣家では賑やかに祝いの宴。
聞こえて来るのは、
清元の「風狂川辺の芽柳」。
幸兵衛の中で耐えていたものが切れ、
ついに気が狂ってしまうきっかけとなるのが、
この歌です。
懐かしいです。
安心して
歌舞伎やエンターテイメントを
楽しむことのできる世の中に、
早く戻りますよう⋅⋅⋅