菊之助丈の「京鹿子娘道成寺」。
過日観劇した折の備忘録です。
「京鹿子娘道成寺」
『道行』から。
長唄の舞踊「娘道成寺」ですが、
この部分だけは義太夫の演奏。
太い三味線の音色に乗せて、
花子の追われるような
急かされるような心情が浮かび上がり、
ドキドキする所。
菊之助丈の花子は、
匂い立つような美しさ。
花子=清姫の霊、という陰の部分よりも、
明るさを感じました。
黒地に桜の衣装は、
しだれ桜ではなく、
全体に桜が散りばめられたもの。
これは音羽屋の型でしょう。
「道行」の前から舞台に登場している所化たち。
こちらには、権十郎丈を上置きとして、
若い役者さんが多く出ています。
皆、にこにこと役を勤めていました。
一番若い左近さんは、
少し緊張なさっているように見えました。
『問答』
花子が舞台袖の垣根の外に来るので、
所化たちが騒ぎ出します。
所化たちに、
「白拍子か、生娘か。」と聞かれて、
「これはこの辺りに住む
白拍子にて候う。」と、
簡単なやり取りの後、
垣根のうちに招かれます。
このくだりの菊之助丈は、
坂東玉三郎丈に不思議とそっくりでした。
玉三郎、菊之助では、
「娘二人道成寺」を踊ったこともあり、
教えを受けたことから、
似てくるのは当然かもしれません。
なお、この「問答」は本来なら
禅問答のようなやり取りがありますが、
その部分は今回はカットでした。
『乱拍子、中啓の舞』
赤い着付けに、金冠姿。
輝くばかりの美しさ、格調の高さ。
〽花のほかには松ばかり⋅⋅⋅と
能を模した舞いで、
緊張の糸が張りつめます。
以前観た、先代芝翫丈のときには、
「橘の道成興行の寺なれば、
道成寺とは名付けたりや」
という謡いをご自身で謡い、
乱拍子も長く丁寧に踊っていました。
今回は、短いバージョンで。
中啓の舞から金冠を外すのは、
自分で、
あるいは後見が外していたようでした。
(鐘をつり上げている紅白の綱に
引っ掛ける型もありました。)
〽言わず語らぬ我が心⋅⋅⋅
金冠を外した後のこの部分は、
髪にかんざしもなく、
地味になりやすいところなのだそう。
しかし菊之助丈は、ぱあっと華やかに
舞台一杯の存在感。
そして引き抜きからの『鞠歌』。
鞠つきの振りは、
腰を低く落として見事な安定感です。
〽恋の分里(わけざと)武士も道具を⋅⋅⋅
歌詞を表現する踊りの振りが的確。
『花笠』
小道具の花笠の扱いもそつなく、
きれいに弧を描いていました。
所化たちも花傘を持って踊ります。
居並ぶ若手たちの中でも、
鷹之資さんの踊りに目が行きました。
「娘道成寺」は、
一人の女方が一時間あまり踊り抜く
舞踊の大曲です。
後半はまた後ほど⋅⋅⋅