この襲名で幸四郎を名乗ることになる
染五郎に関する、父⋅幸四郎の言葉。
「高麗屋の紋で簪を作るのは、初めて」
「春興鏡獅子」は女方舞踊の大曲。
染五郎丈が歌舞伎の舞台で初役で踊ったのは、
10年ほど前のこと。
しかしもっと若いときに、
舞踊会で勤めたことがあるようです。
「鏡獅子」の弥生のかつらには、
「平打ち」というかんざしをさしますが、
演じる役者の紋が使われます。
高麗屋、代々の松本幸四郎は立役、
しかも骨太な英雄豪傑の役を得意としています。
これまで「鏡獅子」のような
女方舞踊を踊った役者はいなかったということ。
幸四郎丈が、息子染五郎の多才さを
誇らしく思う気持ちがあふれています。
「ひとしおの思い」
転落事故のため、舞台を遠ざかっていた
染五郎丈の復帰公演、
2013年2月、日生劇場にて行われました。
染五郎丈の「吉野山」の開幕前に、
父⋅幸四郎丈の口上の一幕がありました。
正直、成人した息子の復帰公演に、
本人ではなく父親が口上を述べるのは⋅⋅⋅と思いました。
でも、役者としてでなく、父として、
詫びや礼を言いたいという、
強い思いがおありだったようです。
「今月はまた、ひとしおの思いがあります。」
と、染五郎の回復と舞台復帰の喜び、
心配をかけたことへの詫びや、
本人の今後について語り、
以前にもまして市川染五郎をよろしく⋅⋅⋅
というような内容でした。
真摯さに心を打たれると共に、
この方は本当に息子が大好きなのだなと、
ほほえましく感じました。
「染五郎という器から芸があふれる」
今回の襲名が発表された2016年12月。
その記者会見にての言葉。
「昨今は、もう染五郎の芸というものが、
その器からあふれ出てしまって
もったいない気がしていました。
幸四郎という器にして、
また新たに芸をいっぱい詰め込んでもらいたい。」
父親として息子のことを人に話すときに、
ここまで誉めるというのは珍しいこと。
しかし逆に言えば、
幸四郎の器に成長せよという喝にも受け取れます。
観客である私たちは、
新幸四郎がその器を満たしていく過程を、
見ることができるという幸福。