納涼歌舞伎第一部の覚え書き。



「刺青奇偶」(いれずみちょうはん)
昭和7年、長谷川伸による新作歌舞伎。

半太郎はまっすぐ、一本気な性格ながら、
博打のために身を持ち崩しています。

今回は半太郎は市川中車。
四十半ばで歌舞伎を志した中車丈ですが、
舞台演劇の素養がありますので、
こういった役は難なくこなしています。

18世、そして17世の中村勘三郎丈の当たり役ですが、
残念ながら私は見る機会に恵まれませんでした。

その18代目に生前勧められた役だそう。


人生にやけっぱちになっていたお仲。
半太郎に救われ、もう一度生きようとしますが
病のため命いくばくもありません。

こちらは玉三郎丈の当たり役ですが、
今回は演出に回られています。

七之助のお仲は、その玉三郎丈を師としてよく学び、
半太郎への思い、いじらしさがよく出ていました。


政五郎親分は、染五郎。
半太郎の話を聞き、負け博打を打ち、金子を投げ出します。
大きさ、貫禄が必要な、なかなか難しい役だと思いました。

驚いたのが、芝のぶの おたけ。
病身のお仲の面倒を見る、近所の女房です。
このような年齢のいった役を見るのは、おそらく初めて。
しかし、優しく情け深く、印象的です。
(第三部の「桜の森の⋅⋅⋅」では、
非常に振り切れた演技をなさっているようです。)



長谷川伸の歌舞伎の脚本として、他に
「一本刀土俵入」や「瞼の母」があります。

歌舞伎を見始めた若い頃は、
こういった新作歌舞伎は、
どちらかというと避けていました。

せっかく「古典」を見に来たのに、
なぜ新作⋅⋅⋅という気持ちがありました。

でも今こうして新作に触れてみると、
代々の役者さんが繋いできた思いを感じますし、
どの時代も観客の心の琴線に触れてきたからこそ、
繰り返し上演されている⋅⋅⋅
ということが分かってきたように思います。




「玉兎」、「団子売」

満月で餅をつく兎、こちらは幻想の世界。
街かどで団子をついて売る団子売りは、現実の市井。
この二つをつなげた趣向は、おもしろいです。

「玉兎」は なおやくん⋅⋅⋅
ではない、勘太郎が見事に踊り切りました。

歌舞伎座初出演は3年前の納涼歌舞伎、
あのときは三津五郎丈との共演でした。
台詞や花道を歩くのさえ覚束なかったのが、
こんなに⋅⋅⋅と思うと、感慨深いです。


「団子売」、勘九郎と猿之助。
勘九郎は、見るたびに存在感が増しています。
猿之助さんは利発そうなかわいらしい奥さん。
踊り上手な二人ですので、もっと見ていたい感じでした。