四月大歌舞伎昼の部 観劇覚え書き(続き)。

二、「伊勢音頭恋寝刃」


メインの「油屋」の前に、
「追駆け」、「地蔵前」、「二見ヶ浦」が付きます。
歌舞伎座では22年振りとのこと。

悪人側の侍、橘三郎、橘太郎と
善人側の隼人が、大事な手紙をめぐって
追いつ追われつのコミカルな場面。

橘三郎、橘太郎の二人は、
さすが芝居上手、この場面を盛り上げます。

隼人は先月(伊賀越道中双六)に引き続き、奴の役。
芝居が大きく、存在感が増しました。

今田万次郎の秀太郎丈は、
おっとりとした若殿様。
このお芝居が元は上方のものであったことを、
感じさせます。

二見浦の場で、染五郎の福岡貢が登場。
手に入れた手紙を読もうとすると、
ようやく朝日が昇り、「読めた」と喜びます。

侍たちを下に敷いて、
立身で反った形で決まり、あっさりとした印象。
ずっと以前に見たときには、
手紙をひらひらさせる、
もっと派手な型がついていたように記憶しています。

私が見たのは、誰の貢だったのでしょう…。
記録によると…
平成元(1989)年 尾上菊五郎、新橋演舞場
平成7(1995)年 片岡孝夫(現、仁左衛門)、歌舞伎座

演じる人による型の違いには、
興味深いものがあります。


油屋の場、白い着付けに羽織姿の貢、
その姿かたちは輝くよう。

万野に覚えのないことを言い掛けられ、
お紺に愛想尽かしをされ、
元、武士としての誇りを傷つけられても、
ぎりぎりのところで思いとどまります。

だからこそ、妖刀に操られての殺しには、
より凄みが増したように感じました。

猿之助の万野。
情け容赦なく意地悪、
もっとねちねち嫌らしいのかと思ったら、
意外とストレートに悪役な感じでした。

市村萬次郎のお鹿。
さすが女形だけに、おかしみよりも、
一途さ、あわれさが勝ります。

米吉のお岸。
かわいいだけではなく、
本当に上手になったと感じます。
こういった役では安心して見ていられます。

梅枝のお紺。
皆の話を黙って聞いている間、
台詞も仕草もほとんどないのですが、
存在感が大きいです。


油屋奥庭の場、
大勢の伊勢音頭の踊り子が出ます。
伊勢音頭とは、
ゆったりした盆踊りのような踊り。
お弟子さんクラスの役者さんが大勢出て、
知っている顔を探すのが楽しいです。

顔が分かったところでは、
徳松さん、芝のぶさん、千壽さん。
他に段之さんや蔦之助さんも出ていたようですが、
あっという間に終わってしまうので残念。

丸窓を突き破って、貢が出て来ます。
ゆったりした立ち回りの中に、
獲物を追い詰めるような狂気を感じました。

お紺と喜助が出て、
その刀が探し求めていた
青江下坂であることを知らされると、
貢は正気に返ります。

お芝居はここで終わりですが、
この後の物語では、
貢は罪を悔いて切腹するそう。

そんな余韻も感じさせる、
憂いのきいた貢でした。



配役で、吉之丞さん、
幸雀さんが休演なのは心配。
仲居千野役は京妙さんに代わりました。


三、「熊谷陣屋」


幸四郎さんの時代物、武将役と言えば、
眼光鋭く、力強いというイメージでしたが、
今回の熊谷は、少し違いました。

もちろん力強さはありますが、
丸く穏やかな雰囲気をまとっているよう。

それから今回の熊谷は、
顔のこしらえが違っており、
かなり赤く見えました。
芝翫型の熊谷を
意識されてのことでしょうか。

相模は猿之助、
真女形の役を演じ切っていました。
先代芝翫丈に習った役とのこと、
納得です。

義経の染五郎、
「伊勢音頭」も良かったのですが、
こちらも光輝くばかりに美しく、
気品のある姿でした。



四月大歌舞伎昼の部、見ごたえのある舞台でした。