先日見た歌舞伎座第一部、「おちくぼ物語」。
涙腺が崩壊したままで観劇。
ハッピーエンドで、明るい話なのですが、
ずっと耐え忍んできたことが、報われる…
というシチュエーションに弱いようです。


<あらすじ>
源中納言の先妻の姫は、容姿も優れ心も美しいのに、
継母北の方や異母妹にいじめられ、
屋敷の中の日当りの悪い、
一番おちくぼんだ部屋に住まわされ、
おちくぼの君と呼ばれています。
姫は、着物の縫物などをしながら
ひたすら耐えしのんでいましたが、
唯一の味方である侍女夫婦の取りもちで、
都で一番の貴公子左近少将と結ばれます。
それを知った北の方は、姫を陥れようとしますが、
無理にすすめられた酒を飲んだ姫は豹変し…。
(「歌舞伎美人」より引用)



この「おちくぼ物語」は、
昭和になって作られた新作歌舞伎です。
しかし、原作は平安初期に書かれた
「落窪物語」という古典作品です。


今回、この「おちくぼ物語」が上演されると知り、
ちょっと心に引っ掛かりが…
以前上演されたときに見たことはあるのですが、
それ以外に…

こちらです。

田辺聖子先生の「舞え舞え蝸牛 新・落窪物語」です。

「落窪物語」をもとに創作された小説です。
いつ頃読んだのかは、忘れてしまいました。

「舞え舞え蝸牛」、原作の「落窪物語」、
歌舞伎の「おちくぼ物語」は
登場人物や設定はほぼ一緒ですが、
結末が違っているようです。

今は「舞え舞え蝸牛」は
残念ながら絶版状態のようですが、
同じテーマで同じ作者の、
「おちくぼ物語」、「おちくぼ姫」
という本が出ているようです。

小説の中で主人公のおちくぼの君、
左近少将はもちろん、
取り巻く人々も生き生きと描かれており、
物語に引き込まれました。

特に姫の侍女である阿漕は、
姫様を思い心を配る一方、
帯刀といい仲になり、やや尻に敷いているという、
なかなかかっこいい女性に描かれています。

今回この阿漕を演じているのは、坂東新悟さんです。
帯刀役の坂東巳之助さんと、いいコンビ、
ほのぼのとした雰囲気を出していました。

新悟さんは坂東彌十郎さんの息子さん、
お父さんに似て身長が高い、
女形を目指している役者さん
ということは知っていました。
これまで見たお役は、
「道成寺」や「喜撰」などの踊りに出る
お坊さんや、腰元役など。
今回のように台詞のある役はほぼ初めてです。
楚々とした姿、声もきれいでした。

巳之助さんとは私生活でも仲が良いようですが、
今後二人でどんな役を見せてくれるのか、
期待しています。


さて、「おちくぼ物語」ですが、
私が以前見たのは、1993(平成5)年でした。
そのときの配役と今回とを比べると…

おちくぼの君…七之助***時蔵
左近少将………隼人****橋之助
帯刀……………巳之助***染五郎
阿漕……………新悟****孝太郎
北の方…………高麗蔵***秀太郎
(左が今回、右が1993年)

今回、北の方役の高麗蔵さんはかつて、
その娘役の三の君を、
兵部少輔の宗之助さんはかつて、
牛飼童三郎を演じていたようです。
牛飼童三郎の国生さんは
まだ生まれていなかったですね。

こう見てみると、
今回は完全に一世代若返ったようです。


歌舞伎「おちくぼ物語」の初演は、昭和34年、
おちくぼの君は六世中村歌右衛門丈だったそうです。