突然、冷房装置の排出口から一際大きな音を発して、冷たく重たい煙が噴射されました。その大きな音でぼくは目を覚ましたと記憶しています。
ぼくの髪は凍りつき、氷柱が下がるくらいですから、そのまま眠り続けたら、たぶん、ぼくは命を落としていたでしょう。
そして異常な様子をみせる冷房装置から、うねうねと天井をのたくる無数の管は、あちこちから勢い良く冷たい煙を噴射させていました。
「なんだ、なにが起きたのだ加藤君!」
霧渕博士は錯乱し、怯えた様子でぼくに振り向きました。
博士の、その、あまりにも鬼気迫る形相にぼくは恐怖を覚え、気が付けば冷たく重い煙を噴出し続ける排出口に頭を突っ込み、冷房装置の中や裏側をまさぐっていました。すると、すぐに異常な熱を発する部品を探り当てました。
「熱いっ、霧渕博士、回路が加熱しています。温度を制御している装置を取り替えないと……!」
「なんだって?」
冷房装置のレバーは凄い勢いで跳ね上がり、すべては静止……耳が痛くなるほどの静寂が訪れました。
「……過激な冷却で機能矛盾を起こしたか……畜生、呪われてしまえっ!」
頭を抱え、天を仰ぐように叫びました。
「加藤君、なんとかしてくれたまえよ……いや、故障の原因がわかるきみなら直せるはずだ。冷気がなければ……死体が……一郎太が!」
霧渕博士は、両手の握りこぶして壁を叩きました。
その時です、研究室の蔵の小窓から、昼間と見間違うような閃光が走り、すぐに大きな雷鳴が轟きました。
「うぁい……いうぅぅ……あぁごおぉ……」
一郎太君です……一郎太君が、雷鳴に反応したかのように、光なく焦点の合わない瞳を、薄く開いたのです。
ぼくは、とてもその時の恐怖を、戦慄を語ることはできません。残念ながら語る言葉を持ち合わせていないのです。
霧渕博士は、一郎太君の上半身を抱き起こし、優しく語りかけました。
「よしよし、雷にびっくりしたか。身体も火照ってるようだな。もう少しの辛抱だぞ、一郎太」
と、一郎太君の髪に手をやると、その頭皮ごとずるりと剥けてしまいました。
「加藤君、まだ処置は終わってないのだ。早くしないと、一郎太は……一郎太は腐ってしまうぞ!」
狂気を孕んだ表情で、一郎太君の頭髪が絡みついた指をぼくに向けました。
「さ、探してきます!」
ぼくは霧渕博士の気迫に押されて、慌てて土砂降りの雨が降る、深夜の街に飛び出しました。
そして取り憑かれたように、ひたすら思いつくがままに、冷房装置の部品を求めて駆け回っていたのです。
今から思えば、ドイツで作らせた特注品の冷房装置の部品など、そうあるはずもないのですが……このときは、無我夢中でした。
