財産及び債務の明細書の記載方法 | 税務調査専門の公認会計士・税理士、たけよしのブログ

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※この記事は、法律改正によりH28以降当てはまらないので注意してください。



初めまして。公認会計士・税理士のたけよしです。

毎年この時期になるとご相談を受けますので、今回は改めて「財産及び債務の明細書」の記載方法について記載します。




【概要】


まず、財産及び債務の明細書は、毎年12月31日時点における、財産と債務の一覧を自己申告する制度です。(所得税法232条)


記載対象となる財産は、以下のものです。


・土地(林地含む)
・建物
・山林
・現金
・預貯金
・有価証券(株式、公社債、証券投資信託、貸付信託等)
・貸付金
・未収入金
・受取手形
・書画骨董及び美術工芸品(1点10万円以上)
・貴金属類(1点10万円以上)
・家庭用動産(1個または1組の価額が10万円以上 家具や自動車など)
・その他の財産(1点10万円以上 特許権や生命保険料の払込金額など)



一方、記載対象となる債務は、以下のものです。


・借入金
・支払手形
・未払金
・未払税金



上記は国税庁のHPから転記したものですが、財産に対する記載基準が非常に厳しいです。

価額10万円以上ですので、対象になりそうなものとしては、車などの大きい資産だけではなく、応接セット、インテリア、テレビ、エアコン、ゴルフセットから、指輪、ネックレス、ブレスレット、などなど、多岐に渡ります。

そして、この明細書を提出しなければならない方は、以下の方です。




その年の所得が2000万円を超える人。ただし、源泉分離(預金利子や公社債投信の収益分配金など)の所得を除きます。




ですので、会社勤務のサラリーマンで給料だけしか収入が無いという人も、年収が高ければ提出義務があります。(概算ですが、扶養者なし・医療費控除等の所得控除なしの方で、給与の額面収入が2500万円程度以上の方は該当します。)

また、この制度における課税当局の目的は以下であると考えられます。




・所得税の申告との整合性確認(例、貸付金が多額にあるのに利子収入が無い⇒所得の申告漏れの指摘)
・将来あなたが亡くなった時の相続税徴収の基礎資料





平たく言えば、高額所得者の財産を把握し、将来税金を取り立てるためと言えます。

しかし、税金を取り立てられる情報をわざわざ提供することにも抵抗はあると思いますが、10万円以上の家電を含めた財産なんて、普通の人でも全て把握することは困難でしょうし、作成すること自体が大変面倒ではないかと思います。





【作成に当たって覚えておくとよい点】


このように非常に面倒な制度ですが、実はこの制度には納税者にとってありがたい事情がいくつかありますので、それをご紹介したいと思います。




①財産及び債務の明細書の提出制度はかなりのザル規定であること。



いきなり制度の根幹を揺るがす事情です。

この明細書は所得税法232条第1項本文に規定されるように、対象となる納税者に提出義務があります


しかしながら、罰則規定がありません


そのため、明細書を提出しさえすれば義務履行完了であり、その内容に意図的な虚偽・改ざん、意図しない誤謬、記載漏れ、架空記載、等々何があっても罰せられません。

また、提出しなくても(刑罰を受けないという意味においては)究極的にはOKということになります。




②明細書に対する実質的調査権限が税務署には無い(※事業用財産を除く)




普通、税務署は提出書類に誤りがある場合、最終的には質問検査権を行使してその金額を確認してきます。(いわゆる税務調査です)

しかしながら、平成25年1月から税務調査の規制が厳しくなり、容易に税務調査が出来なくなりました。そのような経緯を踏まえ、この明細についての課税当局の対応としては、以下が考えられます。



1.未提出者に対してしつこく催告をする
2.提出された明細について、「お尋ね」として文書または電話で質問をする
3.提出された明細について、「税務調査」として質問をする




1について、対象者は一応は明細書の提出義務がありますので、税務署としてもしつこく提出を求めることはあります。しかしながら、これは税務調査ではありませんので、究極的には無視しても罰則はありませんし、適当に書いて提出しても上記①から罰則はありません。




2について、提出した明細におかしな点があれば、文書や電話で質問をすることがあります。しかしながら、これも税務調査ではありませんので、究極的には無視しても罰則はありませんし、適当に答えても上記①から罰則はありません。





3について、こちらは税務調査としてやりますので、虚偽の答弁には罰則がありますしかしながら、先述のとおり税務調査をすることは税務署側にとってかなり面倒で、税務調査をやる旨や税目、調査理由などを説明する義務があります。

さらに、税務調査においては税務職員は質問は自由にできますが、納税者の「事業に関する帳簿書類その他の物件」しか提出を求めることができません

つまり、税務署が



・明細書の真正を確認したいので、自動車購入時の契約書を提示しなさい
・明細書の記載に漏れが無いか確認したいので、全ての通帳を提出しなさい
・他の家族名義のものがあるかもしれないので、家族の個人情報を教えなさい




と言って文書や情報の提出を求めてきた場合、事業をやっていない納税者に対する提出指示であれば、これは税務署の権限外行為であるため拒否することが出来ます

もっとも、普通はこの明細書の不備を指摘しても追徴に発展しないことが見込まれますので、税務署がわざわざ時間を割いて(無駄な)税務調査をやるとは思えず、納税者が事業をやっていないケースでは、明細書に関する税務調査は100%ないと考えても良いと思います





③国外財産調書は別制度




平成25年から、国外に5,000万円以上の財産を所有する納税者は、国外財産調書の提出義務が課されています。この制度は財産及び債務の明細書とは別の制度で、虚偽記載や未提出には罰則が科されますのでご注意ください。





【明細書の具体的な記載方法】



では、上記を踏まえて具体的に、(楽な)記載方法や対応方法をいくつかご紹介します。

ただし、以下はあくまで方法のご紹介であり、専門家としてお勧めするものではありません。また、結果については自己責任でお願いします。





①税務署からの督促があるまで作成しない。



 ⇒提出することで納税者に有利になる点、又は不利を回避できる点が全くないので、作成しないに越したことはありません。




②督促があった場合、それでも作成しない。



 ⇒作成・提出しなくても罰則はありません。




③督促があった場合で、どうしても作成・提出する場合は、預貯金だけ概算である程度正確に記載する。事業所得や不動産所得がある場合、預貯金に加えて事業関連資産については帳簿と整合性を取って記載する。





※常識的に考えて、預貯金無く生活することはあり得ませんので、預貯金だけ万円単位くらいで正直に記載しましょう

それ以外のものについては、「よくわかりません」で押し通す方が楽です。


土地や建物について、「不動産登記簿を見るとあなたが所有者になっていますが」と税務署から照会が来たとしても、「記載が漏れました」と答えれば終わりです。

ただし、贈与認定されて贈与税が課される可能性がありますので、記載金額を減らすために家族に預金を移すことは絶対に止めてください。

また、個人事業主の場合は事業の税務調査に発展する可能性がありますので、他の項目についてもある程度正確に書いておいた方が良いかと思います。




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たけよし

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