この曲はAKB48の18thシングル「Beginner」に収録されているカップリング曲です。
DIVA名義の曲になっていますけれども、後に秋元才加、梅田彩佳、宮澤佐江、増田有華らで結成されたDIVAとは別物のユニットです。
AKBの各チームから5、6名ずつ、そしてなぜかSKEから大矢真那が加わった17名からなるダンス&ボーカルユニットになります。
AKBとしては珍しく、ボーカル担当とダンス担当を明確に分けた構成になっています。
ちなみに、ボーカルを担当していたのは、秋元才加(センター)、梅田彩佳、倉持明日香、佐藤亜美菜、佐藤夏希、近野莉菜、増田有華の7名です。
そんなこの曲は、歌詞をじっくりと噛みしめながら聴きたい、珠玉のラブバラードです。
1番Aメロ
秋風になびくように
白い波が遠ざかる
岸辺を振り向くことなく まっすぐに
思い出たちが沖へ向かう
海と陸の温度差によって生じる風を「海陸風」と称します。
陸地のほうが海水面よりも暖まりやすく冷えやすいため、陸上と海上で気温が昼夜逆転します。
そのことによって起こる現象です。
日中は海から陸に向かって吹く海風となり、夜間は陸から海に向かって吹く陸風になります。
「秋風になびくように 白い波が遠ざかる」とありますから、陸風が吹いていて、時間帯としては夜ということになるのでしょうか。
しかも「秋風」ということですから、季節は喧騒の夏ではなく、寂寞の秋になります。
つまり状況としては、秋の夜、寂し気な海辺に佇んで、主人公は沖を眺めているといったところになるのでしょう。
そして、その主人公の心情として、時の流れとともに大事な思い出が遠ざかってゆく(記憶が薄れてゆく)ことに言い知れぬ寂しさを感じている、ということを詩情豊かに描いているわけです。
1番A'メロ
コンクリの防波堤
腰かけるとひんやりする
太陽が照りつけたあの日の熱は
もうどこかへ消えてしまったね
秋も深まってきている時期だったのでしょうか。
コンクリの防波堤に腰かけてみると、その感触は冷たかったというのです。
夏場は太陽に照り付けられ、熱くて座れなかったというのに……。
ここの描写は、楽しかった夏(君と過ごした時間)の終わりと、主人公の冷え切った孤独な心を重ね合わせているのでしょう。
1番Bメロ
サヨナラ
僕たちが砂浜に作った山は崩れ
サヨナラ
悲しみに 今 流されそうさ
別れによって、二人がこれまでに育んできたもの・築いてきたものが、脆くも一瞬にして壊れてしまった。
その儚さに、主人公は悲しみに暮れています。
1サビ
瞳 閉じれば 今でも君が
微笑みながら話しかけて来るんだ
いつものように 僕を見上げて
夏の服で隣にいるよ
夏の服を着て無邪気に微笑む「君」の姿は、つい最近まで何気ない日常の風景だったのでしょう。
そんな幸せな風景が、ある日突然消えてしまったわけです。
それでも目を閉じれば、「君」の姿がありありと浮かび上がってくる。
その現実とのギャップに、主人公の心は引き裂かれそうになっています。
2番A'メロ
携帯に残ってる
何枚かの写メの中
犬とじゃれ合ってる君がピースして
そう最後に何か言ってるよ
「君」が犬と戯れる無邪気な写真が、携帯に何枚も残っている。
それを見返すたびに主人公は悲しみに暮れるわけです。
「そう最後に何か言ってるよ」というのは、「君」が何と言ったのか、そのときは必ずしも、主人公は聞き取れなかったのかもしれません。
「君」と別れてしまった今となっては、あのとき何と言っていたのか確かめる術もない。
たわいもないことかもしれないけれども、主人公としては、そのことが今さらながら悔やまれて仕方がないのです。
2番Bメロ
突然
地上からあの空のどこかへ消えた君は
突然
運命を どう受け止めたのか?
ここまでの歌詞の内容からして、この歌は失恋ソングだとばかり思っていたら、実は「君」との死別を歌っていたのですよね。
「突然 地上からあの空のどこかへ消えた君は」という描写が、予期せぬ永遠の別れ(死別)を強く暗示しています。
それこそ、相手は別れの言葉を残す暇もないほど突如としてこの世を去ったのでしょう。
そう考えると、「そう最後に何か言ってるよ」というA'メロのフレーズは、絶望感を強烈なまでに象徴していることになります。
ある日突然2人の日常が途切れてしまい、あのとき「君」が何と言っていたのかを永遠に確かめられなくなってしまったのですから。
何が原因で亡くなることになったのか分かりませんが、突然のことでさぞかし「君」は困惑し慄いたことでしょう。
「運命を どう受け止めたのか?」というフレーズには、突然命を失った「君」の心情に想いを巡らせようとしている、主人公の深い慈しみと、自分は何もしてあげられなかったというやりきれなさが、込められているのではないでしょうか。
2サビ
瞳 閉じれば 今でも僕は
出会った頃の君を思い出すんだ
これからずっと 一緒にいると
誓い合った2人のことを…
1サビでは、つい最近まで隣にいた「君」の姿を思い描いていました。
それに対し2サビでは、記憶を遡り「出会った頃の君」へ行き着いています。
主人公は、希望と未来だけが存在していた一番純粋な愛の原点に逃げ込まなければ、現在の孤独に耐えられなかったのでしょう。
「これからずっと 一緒にいる」という誓いは、互いの未来を信じて疑わなかった最も幸福な記憶です。
けれども、突然の別れによってその約束は絶対に叶わなくなってしまったわけです。
そんな理不尽な現実を突きつけられながらも、主人公は絆の原点にしがみつかずにはいられない。
なんとも切ないですよね。
Cメロ
僕のことを見守ってた空が
太陽を落とし 泣ける場所をくれた
抱きしめたいよ Ah-
君をもう一度…
Bメロに「あの空のどこかへ消えた君」とありましたから、「空」は「君」の魂の居場所ということになります。
つまり、「僕のことを見守ってた空」とは、自分を優しく見守り続けてくれる「君」のことに他なりません。
主人公にとって、見上げる空そのものが「君」の存在を感じられる唯一の依り代になっているのでしょう。
そんな「君」(空)が、夜の暗闇をもたらしてくれたというのです。
主人公は、昼間の明るいうちは周囲を憚って泣けずにいたのでしょう。
けれども、夜の闇が訪れたことで、我慢せずに大声で泣き叫ぶことができたのです。
きっと「君」がそのための場所を用意してくれたのだと、主人公は受け止めているわけです。
そんなふうに、空の中に「君」の優しさを感じたからこそ、主人公の感情があふれ出し、「抱きしめたいよ Ah- 君をもう一度…」という切実な叫びとなったのでしょう。
落ちサビ
瞳 閉じれば 溢れる涙
大きな声で 君の名前を呼んだ
どうしようもないくらい…
どうしようもないくらい…
星が美しく光る
主人公は大声で「君」の名前を呼び、自分では「どうしようもないくらい」の悲しみと喪失感に打ちひしがれています。
それにもかかわらず、夜空の星は何事もなかったかのように「どうしようもないくらい」美しく輝いています。
空へと旅立った「君」が、ここでは「星」として現れています。
暗闇の中で燦然と光る星は美しく愛おしい。
けれども、どれだけ手を伸ばしても絶対に触れることはできません。
そんな遠い場所へ「君」は行ってしまったのです。
主人公は涙にくれながら、そう痛感するわけです。
ラスサビ
瞼 開いても 君はいないんだ
僕の前には 暗い海だけがある
静かな波が 変わることなく
愛しさ 永遠に運ぶだけ…
涙を流し切って瞼を開けても、目の前に広がるのは冷たく暗い海だけ。
どれだけ泣き叫んだところで「君」はもう戻って来ない。
そんな冷酷な現実を、主人公は受け入れようとしています。
人の命の儚(はかな)さに対して、自然の摂理の中で飽くことなく繰り返される「波」の動きは、「永遠」を象徴しているのでしょう。
主人公は、その変わることのない波に、時間が経っても永久に失われることがない「君」への思いを重ね合わせているわけです。
突然の別れ(死別)によって大切な人を失った主人公が、秋の海辺で深い喪失感と向き合い、一人涙を流す。
そして、消えることのない悲しみを受け入れ、「君」への愛しさを抱えて生きていこうとする。
この曲は、主人公のそんな心の軌跡を描いています。
なお、この曲はワンハーフの歌唱だとありきたりな失恋ソングになってしまいますので、披露する際にはフルサイズで歌ってほしいですよね。
フルサイズでの歌唱とワンハーフでの歌唱とでは、歌詞の重みがまったく違ってきますので。
秋元康 作詞, 鶴崎輝一 作曲, 野中“まさ”雄一 編曲
AKB48「泣ける場所」(2010年)
